三叉(さんさ)神経は脳神経の一つで、顔が感じる知覚、触圧覚、温痛覚(触る、痛い、熱い、冷たいなど)を脳に伝える役割をしている。脳幹部から左右に1本ずつ出て、途中で3つの経路(枝)に分かれ、第1枝は額(ひたい)のあたりに、第2枝は頬、第3枝が下顎へと向かう。
三叉神経に異常が生じ、発作的に激しい痛みが起こるのが三叉神経痛だ。痛みは顔の左右どちらか一方に起こり、洗顔や歯磨き、髭そり、食事など様々な動作で誘発される。風が顔にあたるだけで痛い、抉(えぐ)られるように猛烈に痛いなど突発的に激しい痛みを生じるが、発作は数秒から数十秒で収まる。虫歯かと歯科を受診したり、目の痛みで眼科を受診する例が多い。
横浜市立市民病院神経内科の山口滋紀部長に聞いた。
「三叉神経痛は、脳腫瘍など他の原因があって起こる症候性三叉神経痛と、原因不明の特発性三叉神経痛があります。近年、MRIなど画像診断の進歩により、特発性三叉神経痛は脳の血管が動脈硬化で曲がり、三叉神経に接触することで、痛みが起こることがわかってきました」
三叉神経痛は、専門医が痛みの状況や動作、痛みの起こる間隔などを問診することで、かなりの部分の診断ができる。痛みは第2枝と第3枝の部位で起こることが多く、第1枝の額付近の痛みだけの場合は、症候性三叉神経痛の可能性がある。痛みの症状、部位などの問診やMRIの画像を用いて診断を行なう。診断的治療として、抗てんかん薬カルバマゼピン(商品名:テグレトール)を服用し、症状が改善する場合は、三叉神経痛の可能性が高い。
治療はカルバマゼピンなど抗てんかん薬服用が第1選択で、8割以上の患者に効果がある。抗てんかん薬は神経の過敏性を抑える働きがあり、痛みに対する閾値(いきち)を上げることで症状を緩和する。神経障害性疼痛薬プレガバリン(商品名:リリカ)も効果が期待できる。服用で痛みは改善するが、急に休薬をすると症状が再発するため、医師の指示によって調整する必要がある。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2014年7月11日号