今、国内のFX(外国為替証拠金取引)業界にちょっとした異変が起きている。FX会社が個人投資家に提示する「スプレッド」の引き下げ競争が再燃しているのだ。再燃のきっかけとなったのが、昨年から登場し始めた、スプレッドの“逆転現象”。この逆転現象はFXの常識を打ち破るもので、1998年に個人向けFXがスタートして以来、初めての出来事だ。
そもそも、スプレッドとは、FX取引をする通貨の買値(ask)と売値(bid)の「差」のこと。例えば、米ドル/円取引では、1ドルのレート(=価格)は「102円00銭(bid)-102円03銭(ask)」といった形式で表示される。この場合のスプレッドは3銭となり、それがそのままFX取引におけるコストとなる。
通常、スプレッドはbidよりaskが高くなるが、個人投資家にとっては、スプレッドが狭いほど歓迎される。狭いほうが利益を出しやすくなるからだ。一方、FX会社にしてみれば、スプレッドを狭くすることには限界がある。現在、国内のほぼすべてのFX会社は、取引時の手数料を徴収していない。スプレッドは実質的な手数料にあたり、収益源となっているのである。
だが、個人投資家がスプレッドの狭いFX会社を選ぶ傾向が強い以上、FX会社は競合他社に負けないスプレッドを提示する必要に迫られる。必然的に、FX会社間でのスプレッド競争が勃発する、というわけだ。
あるFXアナリストによると、日本でFXがスタートした1998年当時のスプレッドの最低水準は10銭だった(米ドル/円の場合。以下同)。2006年頃から引き下げ競争が激化し、2008年には1銭というスプレッドが登場。その後、小数点以下のスプレッドが現れ、スプレッド引き下げ競争はいったん、0.3~0.4銭で落ち着くことになったという。
そして、昨年後半についにbidがaskを上回る“逆転スプレッド”が登場した。それ以降、業界でのスプレッド引き下げ競争が再燃。有力FX会社が、一斉にスプレッド縮小の動きが出始めたのだ。現時点でマイナスのスプレッドを提供しているのは、セントラル短資FXと日産センチュリー証券の2社である。
とはいえ、“逆転スプレッド”はいかにして実現したのか。実際に逆転スプレッドを提示している、日産センチュリー証券の商品企画部長・宮入義勝氏に聞いた。
「当社の『アクセスFX』は『NDD(ノー・ディーリング・デスク)方式』を採用しています。NDDとは、投資家からの注文を、FX会社にレートを提示するカバー先と呼ばれる金融機関や、インターバンク市場へ直接発注し、執行する方式です。FX会社のディーリングなどが介在しないため、“取引の透明性”と約定力が高くなります」
特に、日産センチュリー証券の場合は、海外の大手FX会社1社のみをカバー先とするNDDを採用している。その1社のカバー先より配信される複数レートの中で、一番良い(ベストプライス)bitとaskを顧客に提供することで、流動性の確保や逆転スプレッドを実現することが可能になっているという。