真保裕一氏のサスペンス作品『アンダーカバー 秘密調査』がこのたび単行本として発刊された。ひとりのカリスマ経営者が自らに着せられた無実の罪の真相を追い続け、やがて想像を絶する犯罪計画を暴く──というストーリーだ。落語家の林家正蔵が独自の視点で同作について語る。
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先日、富山に仕事で行ったのですが、運悪く台風直撃という時でして、早めに現地に入りました。仕事まで時間ができたので、それじゃあと『アンダーカバー』を手に取ったんですが、これがもう止まらない。面白い小説を読んでいると、寝食を忘れるって言うじゃないですか。『アンダーカバー』はまさにそんな1冊でした。
真保裕一さんの小説は、『ホワイトアウト』ではまって以来、ほぼ欠かさず読み続けていますが、真保さんの特筆すべきところは、毎回毎回、作品ごとに趣向が異なることです。時代設定も違えば、主人公のキャラも違うし、展開も毎回、工夫が凝らされています。
「今度は何が飛び出すか?」と考えるのは、真保さんの作品を読む前の楽しみです。
で、今作。フィリピンでの逮捕劇という山場がいきなりやってきたかと思ったら、今度はいきなりイギリスのマフィアですか。さらに、日本、イタリア、トルコ……と世界をまたにかけて小説が展開していきます。謎を残したまま次々と章が切り替わるんですが、「もっと先を読みたい」と突っ走ってしまって、いちいち自分に「オフサイドを取られたよ」とツッコミを入れていました(笑い)。
ミステリーは海外モノを中心によく読んでいますが、真保さんの構成力は、上質の海外ミステリーに匹敵しますね。場面替えのテンポもさることながら、暗殺者グレイマン・シリーズ(マーク・グリーニー)のような冒険アクションがふんだんに登場しますし、主要人物のひとりの捜査官ジャッド・ウォーカーなどはまるで、ジェフリー・アーチャーの作品から飛び出てきたかのよう。海外ミステリー好きの私はニヤついてしまいました。
数時間で読み終え、真っ先に口をついて出た言葉は、「もっと読みたい!」。真保さん、お願いです。この続編、書いてもらえませんか?
※週刊ポスト2014年8月8日号