その後の証券取引等監視委員会の調査では、土地やビルの減損処理が不適切だったことや2012年3月期配当が違法状態であったことが明らかになる。同社が設置した社内調査委員会は、昨年11月5日、こんな報告書を発表した。
「強くなりすぎた(大平の)リーダーシップが組織を軽視する行動や過度の目標設定につながり、不適切な会計処理を招くに至った」
「(大平の)進退の是非を含む相応の責任の取り方を自ら考え頂く」
事実上、大平に引導をわたす内容だ。同日、大平は創業から勤め続けた社長の椅子を明け渡した。継いだのは、流通大手「イオン」元専務の星名光男だ。
星名は前述のA氏が退任した後、大平が「別の経営の専門家が必要」と白羽の矢を立て、外部から招聘した人物である。
不正経理が行なわれた後に取締役に就任し、不正に関わっていないという理由で社内調査委員会委員長に就き、そのまま横滑りで社長に就任した。A氏と同じく「外部出身のエリート経営者」だった。
同社は2期連続の赤字だったものの、星名の手腕で2014年3月期には黒字転換を果たした。同時に星名はコンプライアンスの徹底と大平の影響力排除に努めた。上場を維持するために東証に「創業家の影響力を徐々に排除していく」旨の経営改善報告書を提出し、社内にコンプライアンス委員会を設置した。
そうした中で開かれたのが冒頭の株主総会だった。
大株主の権利を行使して議長席に座った大平はざわめく出席者をよそに堂々と事業報告を読み上げた。
そして星名を含む取締役8人を選任する案は否決され、新たに大平側が用意した大手自動車メーカー「ホンダ」元専務の鈴木克郎が社長に就任し、同じくホンダ出身者や日銀元政策委員会審議委員などが役員に就いた。
創業家一族がメインバンクや他の株主にも根回しせずに会社側提案を否定した「役員一斉交代劇」は上場企業では前代未聞。経済界に衝撃が走った。
前出の幹部はこういう。
「“叩き上げ”の大平さんはキノコに強烈なこだわりを持ち、会社に愛着がある。一方、外部出身のエリートは“経営のプロ”を自任しているので、利益とコンプライアンスを優先し、コストカットやリストラも躊躇なく行なう。そうした両者の意識の差が埋まらないことが、長引く混乱の原因だ」
(文中敬称略)
●文/伊藤博敏(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2014年9月12日号