業界紙、専門誌のめくるめく世界をあなたに。飲食業界の知られざる実態を明かす専門誌を紹介します。
雑誌名:『近代食堂』
創刊:1969年
月刊誌:毎月22日発売
部数:8万5000部
読者層:飲食店経営者、店長、調理担当者
定価:1419円
購入方法:大手書店で購入するか、発売元「旭屋出版」に直接注文
居酒屋の刺身の値段を見て「スーパーより安い」と思ったことはないだろうか。店は損していないのか、不思議に思いつつ、必ず注文してしまうのだが。
同誌1月号の特集『好調居酒屋の目玉商品&利益商品』は、15店の居酒屋の代表的なメニューの原価率について取材し、その疑問をあっさり解明している。
「目玉商品というのは、居酒屋なら刺身。肉専門店なら並カルビなど。客を呼ぶために原価をかけるメニューを指します。特に刺身は店の評価に直結しますから、原価率50%は当たり前。120%という店もあります。もちろん商売ですから、野菜サラダや、シメに食べたくなるざるそばなどは、原価率20~25%ほどに抑えています。どの店にも利益をキチッとあげるメニューがあって、繁盛店はそのバランスとさじ加減が上手ですね」
と、亀高斉編集長(46才)は語る。が、いかに専門誌とはいえ、「原価はいくら?」と飲食店に聞いて、店主はすんなり答えるものだろうか。
「もちろん嫌がる店もあります。でも多くの店は商品に自信があるので、堂々と正直に答えてくれます。“これ、原価率10%に見える?”と、低コスト料理を自慢されたりもします」(亀高さん)
埼玉のある居酒屋の刺し盛りは「桶にのるだけ盛り合わせ」という、インパクトあるネーミングで、実際、刺身が桶からはみ出すほどに盛り込まれている。(1620円。原価率55%)この店は「刺身の盛り合わせが売り物の店」とお客に強烈に印象づけることに成功し、86席で月商700万円を売り上げているという。
ちなみに同店の〈豪華に見えながらも実は低原価! “利益商品”の王道を行くメニュー〉は、まぐろのカマ炭火焼780円で原価率は14.8%だ。
また、都心のとある和食居酒屋は〈さまざまな魅力アップ術を盛り込む。ボタンエビは提供の際にスタッフが「朝まで生きていたものなので、みそもちゅうちゅうしてくださいね」などとひと言添え〉る工夫をしている。
「あと、最近の流行りは、メニューに刺身5点盛りと書いて、実際は7点盛りにしてサプライズ感を演出することです」(亀高さん)
同誌の、昨年のナンバー1人気企画は『すごい集客メニューが続々! 最新「肉料理」「焼肉」の魅力解剖』。
〈お客をわくわくさせる新アイデアが効果大!〉として、焼き肉店でお客を喜ばせるあの手この手を紹介している。
〈都内のある店では、おみくじを200枚程配布して…お昼に来店したお客さまが、おみくじを話題にして知人と盛り上がり、夜に4名で来店されたというようなことが起こっています〉
おみくじといっても、吉凶を告げるだけでなく、次回の来店で優待券になる仕掛けだ。 和牛のロース800gを塊のままテーブルの焼き網にのせる店もある。
〈まず提供された時に、その大きさに「わぁ」と驚き、「こんなに大きいと、他の肉が焼けねぇよ」とぼやき(いい意味で)…目の前の臨場感と自分だけの特別感が味わえ〉る効果を狙ってのことだ。
「数年前に“肉食女子”という言葉が流行り出した頃からですね。肉を売り物にしている繁盛店が急激に増えてきました。女子だけ焼き肉、ひとり焼き肉、立ち食いステーキ。肉バル…。これから、どんな進化をとげるのか、目が離せません」
さらに、亀高さんは言う。
「飲食店の取材は面白いですよ。繁盛している店は、他にない“何か”が必ずあるんです。話題になる新メニュー、原価率の高さ、料理の味、店の使い勝手のよさ、居心地…繁盛の理由は、一店舗ずつみんな違います。アイディア次第で、巨大チェーン店の居酒屋に、個人経営の飲食店が勝つことができるのも、飲食店なんです」
小が大を制す。「武道のようでしょ?」と亀高さんは、クスリと笑った。
取材・文/野原広子
※女性セブン2015年2月12日号