「木村功は一見すると演技の質が論理的に見えるけど、実はそうじゃない。論理で組み立てるんじゃなくて、感性が鋭い人だった。対して岡田英次は理論派でね。どちらかというと理論が先に行っちゃうから、木村がよく『お前、そういう考え方があるなら、それをちゃんとやれよ』と、からかっていました。
西村はナルシストです。立派な、いい顔していますからね。その自分の顔に、惚れているんです。『おい、俺はいい顔してるだろう』とか言ってきて、ウットリしていました。
ネコさん(金子信雄)は一番役者的な資質を持っている人でした。人とすぐ喧嘩するしね。飲み屋の調理場に入って出刃包丁を持ち出すようなこともありました。でも、普段は非常に優しい人で。『仁義なき戦い 完結篇』でご一緒した時は、深作欣二監督にダメを出されると『あまり深く考えるなよ』と言われました。
『監督は、そんなに深刻なことを言っているわけじゃないんだから。それなのにお前が黙って考え込んでいると、監督が逆に気にするだろ。何か気に食わないことでも言ったのかな、って。だから、あまり気にするなよ』というサジェスチョンを冗談っぽく言ってくれるんですよ。それで、言った後で『俺が言ったことなんて信用するなよ』とか。
そういう、それぞれが個性のある俳優たちでしたから、みんな映画会社とかに引っ張られていくわけです。それでみんな忙しくなって、抜けていきました」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。本連載に大幅加筆した新刊『役者は一日にしてならず』(小学館刊)と『時代劇は死なず! 完全版』(河出文庫)の発売を記念して能村庸一氏(ドラマ『鬼平犯科帳』などのプロデューサー)と春日氏のトーク&サイン会を開催。3月11日(水)19時~、紀伊國屋書店新宿本店にて。入場料700円。
※週刊ポスト2015年3月20日号