糞便の量は150~350gが目安。それに生理食塩水400mlを加えて、網目状の器具で突いて砕き溶かしていく。続いてドロドロの液状になった糞便を、ガーゼなどのフィルターでろ過して大きな塊を除去する。
「便をろ過するのは、内視鏡で注入する際の目詰まりを防ぐためです。内視鏡の目詰まりさえ考えなければ、そのまま注入しても問題はありません」(同前)
その糞便溶液をシリンジ(注射器の筒状の部分)に入れ、大腸内視鏡を通して一番奥、盲腸のあたりに注入する。欧米では上部内視鏡、いわゆる胃カメラを通じて上から十二指腸に糞便を注入する方法が主流だが、それだと大腸に便が行き着くまでに細菌が死んでしまう恐れがあるため、石川氏は下から入れているという。
その後は2週間ごとに糞便検査と血液検査を行ない、経過を観察していく。
「移植」という言葉から複雑で高度な技術を要するかと思いきや、意外に単純で原始的とさえ思える治療法だ。特別な薬剤も用いず、“うんこを水に溶かして入れる”だけである。石川氏はその「単純さ」にこそ糞便移植の強みがあると語る。
「薬物治療ではないので薬の副作用がありません。また、注入するだけなので時間もコストもかからない。
一方、まだ認知度が低く、治療とはいえ他人の糞便を体に入れることに抵抗感が伴うことがデメリットです」
オランダ・アムステルダム大学などの報告では、317人に糞便移植を行なったところ深刻な副作用はなく、3人が腹膜炎や腸炎などを訴えただけだったとしている。
※週刊ポスト2015年3月20日号