ライフ

ピース又吉 これから本読む人にまず勧めたいのは江戸川乱歩

乱歩について語るピース又吉

 今年没後50年を迎える江戸川乱歩。長編小説『火花』(文藝春秋刊)がベストセラーとなっているお笑いコンビ「ピース」又吉直樹氏(34)も熱心な読み手だ。又吉氏が乱歩の魅力を語った。

 * * *
 乱歩作品に共通するジワジワくる怖さや不思議な緊張感にも引き込まれますが、いちばん重要なのは、読み手が主人公の欲望を“少し”理解できることやと思います。乱歩の作品は、たんなる変態の話ではない。

「人間椅子」なら、椅子に入って好きな人に座られたいという主人公の屈折した欲望にどこか共感できるし、鏡の世界に閉じこもる「鏡地獄」もそう。屋根裏を歩き回って節穴から住人の私生活をのぞき見する「屋根裏の散歩者」の郷田三郎の気持ちなんて、実際にやらないにせよ、男ならメチャメチャわかりますよね。だから読むとワクワクするんです。

 他の作家と比べても、設定があってフリやオチもしっかりしていて、途中の世界観も面白い。短い話の中に読書で得ることのできる面白さがすべて詰まっています。こんな怪しげで不穏な雰囲気はなかなか出せない。キャッチーさと同時にコアな怖さもあって、読み手には読書の入り口にも出口にもなる希有な作家です。他に思い当たるのは太宰治くらい。戦前の作品なのに今読んでも全く古さを感じず、違和感なく読み進められるのもすごい。

 あまり読書経験がなく、これから本を読もうという人から「何を読んだらいい?」と聞かれると、まず乱歩を勧めます。

 今回の『火花』は乱歩を意識して書いたわけではないけど、何度も繰り返し読んだ作家なので、芸人としても作家としても無意識的な影響はあるかもしれません。乱歩の好んだ不思議な世界や、アッと驚く仕掛けに魅かれる感性が僕にはある。自分が1人でつくるコントやこれまで書いた短編小説には怪しげな人物が登場する設定が多いのですが、昔にそういう世界を創っていた乱歩には本当に憧れます。

※SAPIO2015年5月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト