テスラEVは自社特許を無償開放して普及を目指す
それは、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズといった著名経営者との違いを説明するうえでも当てはまるという。
「ビル・ゲイツはマイクロソフトを儲けさせるために、たとえばネットスケープのようなライバル企業を法廷に引きずり出して叩き潰しました。アップルにしてもサムスンと特許抗争をしているように、自社の利益追求ばかり。でも、マスクがやろうとしているのは『地球や人類のため』なんです」(同前)
テスラが2.9億ドルの赤字(2014年)を出しながら、EVに関する基本特許を無償で開放したのも、CO2削減を地球規模で広げなければ人類の未来が危ないとの危機感からだ。
「太陽光発電の充電ステーションを動かしてEVにチャージするシステムが世界中に広がれば、CO2の排出量はガソリン車の100分の1になるというのがマスクの持論。でも、テスラがどんなに頑張ってEVを売っても世界のわずか1%のシェアです。
それならばIBMがパソコンのアーキテクチャーを公開して世界中に広まったように、テスラ仕様のEVをオープンスタイルで誰でも自由に作れる環境にすれば、ガソリン車の時代を終わらせることができる。マスクは『その結果、テスラが倒産しても構わない』とまで言っているのです」(同前)
いま、テスラには野心旺盛で優秀なエンジニアが世界中から集まってきている。特にアップルからの転職組が多いというから驚きだ。
「スティーブ・ジョブズは技術屋で現場のエンジニアたちと話ができたから、ときに大喧嘩をしながらでもiPhoneやiPadを生み出してきましたが、現CEOのティム・クックはオペレーション畑だから技術開発の議論なんてできない。優秀なエンジニアはアップルにいても魅力を感じていません。
テスラは電気自動車の開発といっても、いわば走るコンピューター。今後もコンピューティング技術のウエイトはますます高まってくるため、マスクに付いていきたいというアップルの技術者がどんどん流れているのです。
人材流出に不安を抱いたクックは、逆にテスラからエンジニアを引き抜こうとしたら、1人あたり2000万円の支度金を要求されたそうです。それだけ払わなければ転籍してくれないほどテスラの企業価値は高まっています」(同前)
さて、マスクの壮大なビジョンと実行力があれば、「人類火星移住計画」もSF映画のような夢物語ではなくなる気もするのだが……。竹内氏はこういう。
「実現するかどうかは神様も分からないかもしれません(笑い)。ただ、これまでもいくつもの夢を形にしてきたマスクだけに、一歩ずつ近づいていることは確かです」
(敬称略)
●撮影/堀田喬