春日:こういう話、京都の人たちが聞いたら震えるだろうな。ベテランのスタッフたちを含めて、みんなそういうことで嘆いているんですよね。逆に言うと、今はごまかしがないと映せない役者さんしかいなくなっていますから。武田さんのそういう意識ってどういう形で芽生えていったのでしょう?
武田:私、アクションを始める前から、ずっと役者さんになりたくて。それでオーディションを受け続けていたんですね。きっかけは武田鉄矢さんだったんです。『金八先生』とか『刑事物語』に夢中で。武田鉄矢さんとジャッキー・チェンさんの共通点って、「ちょっとダサい」ところで、そこが好きでした。
春日:武田鉄矢さんもジャッキーが好きなんですよ。
武田:ちょっと風貌も似ていますよね。
春日:この前、武田鉄矢さんにインタビューさせてもらったんですけど、そこで『刑事物語』について伺ったときにおっしゃっていたのは、あれは全五作なんですけど、五作とも全部、実は絡みは同じ人たちとやってきたという。
武田:あっ、そうなんですか。
春日:やっぱり武田鉄矢さんも「激しいアクションをやるには絡みが大事である」とすごく思っていて。だから、そこでも「二人の武田」は通じているんだなというね。
武田:うれしいです。そうなんだ。武田鉄矢さんの演技で一番感動したのは、泣いている芝居のときに、涙じゃなくて鼻水を全力で流したんです。それが美しかったんです。人間、本来こういうものだろうって私は感じて。汚いものが美しく見える。私もそういう表現のできる人になりたいと思いました。
春日:武田鉄矢さん、『刑事物語』のアクションもスタントなしなんです。自分で全部やったから生傷も絶えなかったし、すごく大変だったそうです。だから必ず、アクションシーンは最後に撮っていたとおっしゃいましたね。
武田:ケガしないように?
春日:「ケガしても大丈夫なように」という。ケガするとほかのシーンを撮れなくなっちゃうんで、最後にとっておくそうです。
武田:完璧なアクションスターというよりも、「やられるけど、立ち向かう」みたいなのが凄く好きで。やっぱり女優さんは凄くきれいな涙を流しますし、凄く美しいですし。でも、私はそんなこと多分できないって自分でもわかっているので、だったら、自分らしい人間くささを出していきたい。空手をやっていたというのもあるんですけど、アクションという道があるんだというのに気づいて。
アクションを始めたときに、それまではジャッキー・チェンさんと武田鉄矢さんしか見ていなかったんですけど、アクションの方たちに「まず志穂美悦子さんを見なさい」と教えられて。そこから志穂美悦子さんの作品を観るようになって、「ああ、また新しい時代をつくってみたい」「誰かがやっていないことをやりたい」と思うようになりました。