食前酒にも向くスパークリングや、食後酒にうってつけの貴醸酒も食中酒としても楽しめる。食中酒に絞って考えても、和食相手なら万能とも言える純米タイプに、さわやかな味わいと合わせやすい吟醸タイプ。さらには、肉や中華にも負けない力強さのある生酛・山廃系など、無数シーンで新しいマリアージュが待っている。
近年の日本酒が持つ「多様」で「食べ物に合わせやすく」「シーンを選ばない」という特徴は女性人気を獲得した。海外からの人気も高い。2014年の「清酒」の輸出額は過去最高を更新し、115億円を超えた。農林水産省はこの数字を東京オリンピックが行われる2020年までに数倍にする目論見を持っている。
日本酒が楽しめる新業態店もオープンラッシュを迎えている。3月、池袋に「KURAND SAKE MARKET」という3240円の入店料のみで、時間の制限なく約100種の日本酒をセルフスタイルで楽しめる店舗が開店し、人気を博している。この5月19日には、新潟の朝日酒造が1990年代に絶大な人気を誇った「久保田」の名を冠した飲食店を銀座に開店させる。メニューには「萬寿」「千寿」「百寿」のほか、季節限定の「翠寿」なども含めた「久保田」全ラインナップが揃えられ、「冷酒」以外の飲み方提案も積極的にしていくという。
温故知新――。いままさに賛美を浴びる「新政」や「而今」といった日本酒がある。いっぽうで21世紀に入った頃、”新世代”と言われた「十四代」「飛露喜」のような酒もある。”新世代”もいずれは定番化する時期が来る。「温故」の象徴でもある「久保田」は、冷酒ばかりがもてはやされた当時の記憶を上書きし、「知新」につなげることができるのか。2015年の日本酒はますます面白く、そしておいしくなっている。