国内

世界遺産 登録されたら利点あるが住民に迷惑がかかる例あり

 八幡製鉄所や軍艦島などの「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」が新たに世界遺産になる見通しだ。6月28日からドイツで開かれる世界遺産委員会で正式に登録が決まる。

 登録されれば2013年の富士山、2014年の富岡製糸場に続いて3年連続。日本の世界遺産は計19件になる。「登録」されて世界遺産になると、そんなにいいことばかりなのだろうか?

 世界遺産とは、ユネスコの世界遺産条約に基づいて「世界遺産リスト」に登録されたものをいう。

「2015年5月現在、世界には自然遺産197件、文化遺産779件、複合遺産31件の合計1007件あります」(『世界遺産入門』〈シンクタンクせとうち総合研究機構刊〉著者で世界遺産総合研究所所長古田陽久さん)

 自然遺産とは自然の景観や、貴重な動植物の棲息地など。文化遺産は歴史、芸術、学術上の意義を持つ建造物や記念物など。複合遺産は自然と文化両方の価値を持つものだ。

 いずれも「顕著な普遍的価値」を有することが条件になっている。「世界遺産検定」を主催するNPO法人世界遺産アカデミー研究員の本田陽子さんが解説する。

「平たくいえば、どんなに育った環境や文化が違った人が見ても『これはすごい!』と感激したり、驚いたりできるものです」

 日本では観光地としての「お墨付き」をもらうブランドのような感覚で受け取られがちだが、本来の目的は違う。

「あらゆる脅威や危険から遺産を守っていく。世界人類共通の宝物を保護していくことが目的です」(古田さん)

 だが、世界遺産になってもユネスコからの金銭的な援助などは何もない。保護は全面的にその国に委ねられる。

 そもそも世界遺産登録のためにはいくつものハードルを越えなければならないし、登録後の保護の維持も容易ではない。それでも自治体や国が世界遺産登録に躍起になるのは、次のようなメリットがあるからだ。

「非常に大きいのが経済効果です。富岡製糸場は、年間の観光客が5倍強の140万人に急増しました。観光客が来れば宿泊したり食事をしたり、お土産を買ったりと、お金を地元にたくさん落としてくれるから、地域の経済効果は計り知れない」(本田さん)

 2013年に世界遺産になった富士山の経済効果は100億円といわれている。観光客増加に伴い、周辺の道路などのインフラ整備も進む。

「例えば『白川郷・五箇山の合掌造り集落』周辺は世界遺産登録後、高速道路が通じて非常に便利になりました。それは観光客だけでなく、地元の人にとってもメリットが大きい」(古田さん)

 そうした“目に見える”効果だけではない。

「世界遺産があることで地元住民が“ふるさと”に自信が持てる。地元の文化を見直すきっかけにもなります」(本田さん)

 一方、デメリットもある。『白川郷~』の場合、現在も地元住民が暮らしているため、こんなトラブルがあった。

「観光客に勝手に家の中を覗かれたり、戸を開けられたりするなどプライバシーの問題が浮上しました」(本田さん)

 また観光客が押し寄せることで激しい交通渋滞が起こり、地元住民の生活に悪影響が出るケースも少なくない。

「大勢の人が来ることで、マナーの悪さといった問題も起こります。富士山でも、立ち小便やゴミのポイ捨て、落書きなどの行為が問題になりました」(古田さん)

 さらに、自然遺産では外来種の被害など深刻な問題が起こっている。誰もが世界遺産歓迎というわけではない。笑う人もいれば泣く人もいる。決していいことばかりではないことを知っておこう。

※女性セブン2015年6月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン