食肉は肉によってそのリスクが異なる。例えば日本では、鶏肉は「生食しても大丈夫」との趣があるが、諸外国の加熱基準を見ると豚肉よりも高い温度に設定されていることが多い。例えばUSDAの基準では74℃となっているし、そのほかの研究結果を見ても、鶏肉のサルモネラ菌を失活させるには62.5℃で4分17秒~5分28秒の加熱が必要だとされている。前出の豚肉よりも厳しい基準だ。
しかも鶏肉には、近年ギラン・バレー症候群との関係が確定的になったカンピロバクターのリスクもある。2013年の埼玉県衛生研究所の調べでは、国産鶏肉の61%がカンピロバクターに、47.4%がサルモネラ菌に汚染されていたという。カンピロバクターは「60℃、1分程度の加熱でほぼ死滅」(東京都福祉保健局)するとなれば、基本的な安全管理はやはり加熱になってしまう。もっともカンピロバクターやサルモネラ菌は腸管内に分布する菌であり、解体時の処理法次第では、「安全な生食」も十分視野に入ってくる。
関係各位には生食可能な鶏肉の解体・処理技術の開発をぜひお願いしたい。一部の焼肉店で復活したユッケのように、より安全に生肉を楽しむ道筋はあるはずなのだ。
676年に”肉食禁止令”が出されてから江戸末期まで、表向き日本人は肉を口にしてこなかった。日本人がおおやけに肉を口にし始めてから約150年。外国人観光客が大挙して訪れるいま、そして2020年の東京五輪に向けて、食肉にまつわる基準の見直しは急務と言っても過言ではない。基準が変われば、味は一晩で劇的に変わる。実態をつぶさに見て、きめ細やかな基準を設定し、新しい技術を開発する。日本の食文化はさらに進化するはずだ。