手漉き和紙で火薬を包んだ線香花火「筒井時正」(5400円)
夏の夜空に大きく開く花火もいいが、小さな花を咲かせて儚く散る線香花火にもまた風情がある。
安価な中国産におされ、製造業者が廃業に追い込まれる中、今も線香花火を作り続けているのが、福岡県にある筒井時正玩具花火製造所。子供向けの玩具花火の製造を80年以上続ける老舗だ。ただし、線香花火の製造は15年前から。
「今から18年前、国内唯一の線香花火製造所の廃業が決まりました。その時、“国産の線香花火の火を消したくない”と思い、製造技術を継承するため修業させていただき、廃業と同時にすべてを引き継がせていただきました」
3代目・筒井良太さんはそう語る。現在は、職人を育成しながら、『スボ手牡丹』、『長手牡丹』という2種類の線香花火を制作している。2011年には、とことん素材にこだわった新感覚の『線香花火 筒井時正』(5400円)を立ち上げた。
材料はもちろん国産。火薬には、宮崎産の火花を起こすのに重要な松煙と、発火と燃焼を助ける硝石、火球の役割を果たす硫黄を使用している。火薬を包むのは、福岡県八女産の手漉き和紙だ。
「紙の厚み、目の細かさによって火の回りかたが変わります。八女の手漉き和紙は、火の勢いをスムーズに伝えてくれるんです。線香花火はとても繊細。職人の縒り方、火薬の量、気象条件によっても違う表情を見せるんですよ」
四季をイメージして淡く、やさしい色に染め上げた和紙に包んだ「蕾」と、持ち手部分を花びらのように仕上げて束ねた「花」は、火をつける前から美しい。 ワインと同様、線香花火も“熟成”によって味わいが深まるのだとか。
時を経た線香花火はどこかやわらかく、温かみのある火花を散らす。その様子を、この夏、家族団らんのひと時、楽しんでみてはどうだろう。
※女性セブン2015年7月30日・8月6日号