作家・鈴木光司氏が長女・美里さんからの問いに答える対論集『野人力 オヤジが娘に伝えたい「生きる原理」』(小学館)。美里さんからの質問は、彼氏や日常生活だけにとどまらず、「勇気」「目的」といった人生における大きなテーマにも及ぶ。父・光司氏は娘に対して、どのように生きるべきか以下のようにアドバイスする。
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どうしても実現したい目的があるならば、どうやって手に入れるか、獲得にいたるまでの道筋を、文章にしてみることです。
そして、その文章を客観的に読んでみる。もしそこに、希望的観測や他力本願が入り込んでいたら、それは叶わない目的ということになります。論理的矛盾もダメです。実現不可能なことを文字にすることは難しいんですね。言語化した時点で、矛盾が明らかになってしまいますから。
戦争が始まっても、こうした「願望」混じりの作戦が数多く立案されました。こうなったらいいな、と希望的観測を浮かべるだけなら罪にはなりません。しかし、それを現実の世界にあてはめようと思ったら、必ず犠牲が出るのです。太平洋戦争では、実際多くの兵士が死んでいきました。彼らは、「願望混じりの目的」の犠牲者なのです。
娘よ、目的を見出したなら、言葉にすることだよ。そしてその言葉をじっと見るのだ。書かれた文章の中に、論理的矛盾や他力本願が含まれていたら、目的は実現できないということだ。逆に言えば、不可能なことは文章化できない。
「願えば叶う」なんて、とんでもないファンタジーだ。夢は叶うはずだと根拠なき思い込みにすがれば、やがて破滅を招く。
言葉にしたら、行動する。その先にしか、幸福はないのだよ。
※鈴木光司・鈴木美里/著『野人力 オヤジが娘に伝える「生きる原理』より