「確かにインドは積極的な経済政策のおかげでクルマが買える所得水準の国民は増えましたが、それでも街中の移動手段はクルマよりも安く、修理やメンテナンスの負担も少ない二輪、三輪車が圧倒的に多い。
首都ニューデリーでも少しメイン通りを外れれば牛や羊などを避けながらクルマを走らせる光景も見られますし、タクシーの窓を開けようものなら、舗装されていない道路の土煙と物乞いの手が伸びてくる。中国の北京や上海並みに自動車環境が整うまでには、まだ相当の時間がかかると思います」(福田氏)
いくら人口が膨れ上がっても、クルマを必要とする購買層の増加やインフラ整備が追い付かなければ市場拡大が限定的になるのは当然だ。さらに、インドでの現地生産・販売を続けるには、幾多の困難が待ち受ける。
「インド人はカースト制度による身分格差が根付いていますし、プライドばかり高くて協調性に乏しい国民が多いのも事実。スズキのように早くから現地従業員の人材育成に取り組んでいる企業でさえ、工場で労働争議が頻繁に起きるほどですから。
こうしたインド特有の難しさと向き合いながら、どこまで現地で利益を追い求めるのかは、各社悩みどころでしょう。自動車メーカー全体の海外戦略からみれば、アフリカや中東地域など、まだビジネスチャンスの残された未開市場もありますからね」(福田氏)
世界中で生産・販売を推進するグローバル化に成功してきた日本の自動車メーカーだが、今後のインド市場の浮き沈みによっては、勢力地図がガラリと変わる可能性もある。