夏になるとよく耳にするのが、背筋が凍るようなちょっとコワーイ話。残暑も涼しく感じられる恐怖体験をお届けします。37才のパート女性が語ります。
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小学2年生の夏休みのこと。私は父の仕事の関係で、和歌山県・高野山にある寺に泊まったことがありました。
その寺のトイレは屋外にありました。木製の粗末な小屋で、なんだかおっかなかったのですが、夜中に目が覚め、どうしても我慢できなくなってしまいました。
両親を起こすのも悪いと思い、勇気を出して、1人でトイレに向かいました。すると木の上から、何か大きなものが走り回っているような音がするのです。背筋にゾゾゾと寒気が走りました。
「やっぱり誰か起こして、ついてきてもらえばよかった」
そう後悔しながら、トイレのドアを開けました。
そのトイレは、汲み取り式で、屋根の近くの壁に、においを逃がすための隙間が空いていました。縦の長さは20cmくらい、横は1mくらいあったでしょうか。
用を足した後、早く出たかったのですが、なんとなく気配を感じて上を見ました。
すると、その隙間いっぱいの大きな目玉が、ギョロリとこちらを凝視していたのです。その眼は血走っていて、黄色くよどんでおり、キョロキョロと動いていました。
私は怖くて、大声で叫びながら母屋に戻りました。
翌日、その話を両親にしましたが「夢でも見たんだろ」と取り合ってもらえませんでした。でも住職や寺の人は口々に、「天狗とちゃうか」
と、さして驚いた様子もありません。どうやら、そのあたりには、昔からよくお化けが出るようでした。
寺からの帰りも、うっそうと茂る林を抜けるまで、私だけが、誰かの視線を感じていました。あれも天狗だったのでしょうか。それ以来、その寺は訪ねていません。
※女性セブン2015年9月3日号