また、『まれ』の中では出てこないが、ある規模の洋菓子店にはパティシエと客の橋渡しをする、菓子の専門知識を持ったプロの販売員が必ずいる。
同誌では『ヴァンドゥーズという仕事』という連載をし、毎回、見開き2ページを割いて、ひとりの女性をクローズアップしている。
「パティシエばかりクローズアップされる中で、洋菓子店を支えるもうひとつの仕事に光を当てたかった」のだそう。
知らないことはまだある。『特集 進化する厨房』では、各地の洋菓子店の、店主こだわりの厨房を紹介しているのだが、〈厨房のレイアウトで注意したのは、冷凍保存庫を売場から見えない位置に置くこと。『寿司屋に行って冷凍庫からマグロを出すのを見て、おいしそうとは思いませんよね』〉と記す。
ただ、かつて生菓子は、冷凍すると味が落ちるというイメージが作り手側にもあったが、今は作ったらすぐに急速冷凍するのが業界の常識。冷凍庫の進化で、味もまったく変わらないのだそう。
「今朝作った菓子を、その日のうちに売り切るという店もないわけではありませんよ。しかし和菓子と比べて洋菓子、特に生菓子は、比較にならないほど、工程が多いんです。開店資金も半端な額ではありません。オーブン1台500万円することもあるし、中古でも相応の値段です。かといって、買う側からすればケーキ1個450円は高いかもしれない。
人手不足が続くから店主が身を粉にして働くしかないし、その上、原材料は値上がりするいっぽう。イメージとは違って大変な仕事ですが、皆さん、菓子作りが好きなので、そうした苦労もあまり苦にはならないんですね」
全ページカラーの誌面に載る洋菓子は、いずれも“食べる芸術品”。作るパティシエの心意気が伝わってくる。
(取材・文/野原広子)
※女性セブン2015年9月25日号