2016年に流行語にノミネートされそうな単語の1つが「オワハラ」。これは、就職活動中の学生に対し、企業が「他社の面接を受けるな」「就職活動を辞める意思を示せ」などと迫るものです。内定した会社から「これ以上就職活動をするな」と言われた場合、これには従わねばいけないのでしょうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
大学4年生の息子が面接に行った会社から内定をもらいました。腑に落ちないのは、担当者が「他の企業に就活した場合、内定を取り消す」と通達してきたこと。今後、より息子の希望に見合う企業が見つかるかもしれないのに、この縛りには納得いきませんし、最近問題の「オワハラ」ではないでしょうか。
【回答】
ご質問では「内定」とのことですが、「内々定」だと思います。なぜなら経団連と大学とで、10月1日以降に正式内定と合意しているからです。内々定だと、就活継続は法的に問題はありません。
内定と内々定とでは、法的に違います。内定は、その時点で本採用の日を始期とする雇用契約が成立したものと解釈されます。そして、いったん合意した契約は原則として、一方的に取り消すことはできません。
ただ採用内定では、使用者側が解約権を留保しているのが普通で、一定の事由(内定段階ではわからない新卒者の不適格性など)がある場合には、雇用契約を解除できます(内定取消)。一方、内々定は内定までに新卒者が他の企業に流れないように囲い込む、事実上の採用活動にすぎず、法的拘束力はないと解されます。
そこで内定であれば、解約権が行使できる特別な場合以外は、会社の都合で内定を取り消すことは契約違反になります。しかし「内々定」では、法的な義務はないので自由に取り消せます。
就職氷河期のころ、早期に内々定を取り消さなかったため、新卒者が就職活動の機会を奪われたことがあり、期待権侵害の不法行為になるとした事件がありましたが、原則として会社は内定を出すまでの間は取り消せます。
今回の場合、会社は他社に就活すると内定を取り消すといっているので「内々定」のつもりでしょう。ですが、息子さんも「内々定」に拘束されないので、他社の面接を受けることに法的問題はありません。もっとも入社の承諾書を出したり、労働条件まで示されていれば、内定かもしれません。その場合でも、2週間の予告期間を置いて解約できます。
ともあれ、息子さんが納得できる会社を探すのはよしとしますが、能力や適性も見据えて決断すべきだと思います。
※週刊ポスト2015年10月9日号