しかし、全棟建替えの道程は険しいかもしれない。約700世帯、しかも暮らし始めて10年近くの住民が大半である。期間は甘めに見積もっても解体から建替えまで2年半から3年の時間を覚悟する必要がある。住民の「生活」とどこまで「向かい合っていく」のか、補償費を含め、難しい課題が山積している。
マンションの「建替え決議」は区分所有者および議決権の5分の4の賛成で決議できる。賛成反対が拮抗する恐れもある。マンション内部の「コミュニティ崩壊」も心配である。
戸別の買取りについて「購入時の価格以上で買い取る」という話も出ているが、一方で株主代表訴訟のリスクも会社側は背負うこととなる。「責任の連鎖」を必ずしもすべて杭打ちした下請け業者に帰結させることはできない。
今回の事件がマンションマーケットに及ぼす影響は小さくない。湾岸部などに建設されるタワーマンションはエリアによって地下50mから60mまで杭打ちを施さないと支持基盤に到達しない。既存に分譲されているマンション住民は、分譲会社、施工会社を問わず調査を求めることも予想される。
新規分譲販売にあたっても、データの開示等を求められるケースが増えるはずだ。マンションという建物で、「姉歯問題」以来再び勃発した「思わぬ脆弱性」がモデルルームに向かう顧客の足を鈍らせるかもしれない。
幸い、と言えば乱暴な表現だが、今回は業界最大手の三井不動産グループの物件でおきた事件だ。会社がこの事件にどういった解決策を提示、実行できるかは今後起こるかもしれない(考えたくはないが)同様の案件に対する教科書となり得る。