沖縄では、予期せぬ出来事に驚くと、魂が抜け出てしまうと考えられてきた。そういえば、ひどく驚くことを「魂消(たまげ)る」という。沖縄ではそんなとき、「マブイグミ」という儀式をして、魂を呼び戻すのだという。

 たとえば、子どもが驚いたときも、子どもの胸に手を当てて、魂を呼び戻す。チチンプイプイというおまじないと同じようなものか。

 講演のスタッフが、そのマブイグミを行なうというのにはちょっと理由があった。実は、前日、沖縄に着いて空港から講演会場へ向かう車に、ちょっとしたハプニングがあった。車が地下の駐車場への進入路を間違えて、階段を下りてしまったのだ。すぐに気が付いて止まったが、階段から抜け出せなくなった。ついにJAFを呼んで救出してもらう騒ぎになってしまったのだ。

 もちろん、だれもケガはしなかった。ぼくも、あーあという程度で、大して驚いたりすることもなかった。その後、1200人で満員となったホールで講演すると、その出来事すら忘れていたほどだ。しかし、スタッフたちはしっかり覚えていて、ぼくを空港に送った後、事故があった場所でマブイグミの儀式を行なうのだという。

 儀式はいたってシンプル。「マブヤー、マブヤー、ウーテイクウヨー」とみんなで唱える。魂よ、魂よ、私の体を追って来てよという意味らしい。酒や花を供えたり、霊能者であるユタが行なったりすることもあるという。魂を呼び戻すなんていう風習が、今もしっかり残っているなんて、ちょっとおもしろいなと思った。

※週刊ポスト2015年11月6日号

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