中共軍幹部はこの「対抗不能性」を自覚しているがゆえに、2015年9月の軍事パレードで「東風5」などという旧式ICBMを「多弾頭化」したと宣伝せねばならなかった。あれは豪州人をせめて核で脅したいという苦し紛れの演出だ。豪州の地政学的な位置の強みはプライスレスである。
 
 おそらく米国筋の密かな勧奨により、豪州政府は日本の『そうりゅう改』型潜水艦を採用するだろう。ちょうどよい。
 
 三菱重工業と川崎重工業は、合弁で新工場をアデレード市(そこにはASCという豪州唯一の潜水艦造船所がある)に設立し、そこを日本にとっての第三の潜水艦整備拠点にしたらよい。対支有事となればマラッカ海峡とスンダ海峡は機雷で封鎖されるから、中東からの日本向けタンカーも豪州東端を回って北上するしかなくなる。日本の商船のためにも、豪州南部の港に救援拠点があると宜しかろう。
 
 潜水艦だけではない。航空機メーカーも全社合弁で豪州に子会社を創り、その子会社がF/A-18スーパーホーネットの製造権を米国から買って、豪州空軍(同機種のユーザーである)その他に販売できるようにしたらいいだろう。狭い日本国内では実施不能な新兵器の実験も、広い豪州ならば自由自在。F-35計画が崩壊したとき(たぶんそうなる)、この子会社の株は爆上がりするはずだ。わが国にとっても保険になる。豪州内でのシナ人スパイの対策は、「エシュロン同盟」の米英が代行してやってくれるから心配しないで可い。

●兵頭二十八/1960年長野市生まれの軍学者。著書に『アメリカ大統領戦記 1』(草思社)、『隣の大国をどう斬り伏せるか 超訳 クラウゼヴィッツ「戦争論」』(PHP研究所)など多数。

※SAPIO2016年2月号

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