サウジアラビアの首都リヤドで建設中のジッダタワー
中東の二大大国が激しい火花を散らしている。中東一の産油国として知られるサウジアラビアと、古代ペルシャ時代からの伝統を受け継ぎながら核問題を巡って米国と対立してきたイラン。そのイランが米国と雪解けを果たしたことを機に、中東のパワーバランスに異変が起きている。そして、影響は原油にも……。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が指摘する。
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サウジはイランとの国交断絶を通して米国にもシグナルを送っている。米国は、イランの核開発問題で譲歩すれば、イランはIS(イスラム国)対策で協力するという単純な方程式を考えた。その結果、2015年7月14日に、オーストリアの首都ウイーンで、イランの核問題を巡る合意が米英仏露中独とイランの間で締結された。この合意は、事実上、イランの核開発を容認する内容だ。
米国はウイーン合意の結果、ISとの戦いでイランとの共同戦線が構築されたと勘違いしている。イランは、核開発について、米国が譲歩しなくても、ISとの戦いでは、米国と共同戦線を組まざるを得なかった。なぜなら、ISの第一義的目標がシーア派の殲滅だったからだ。イランは自らの生き残りのために、ISと戦っているに過ぎない。
この基本認識がオバマ政権にはできていない。核開発問題で米国が譲歩したことを、イランは、米国の善意ではなく、弱さを示すものであると受け止めた。そして、シリアのアサド政権への梃子入れを強化し、シリア北部を経由して、レバノンのシーア派民兵組織「ヒズボラ」への軍事支援を強化することに成功した。
さらに、イエメンのフーシー派(シーア派)、バーレーンのシーア派に対する梃子入れを強めてサウジに対する包囲網を作ろうとした。このような状況に対して、サウジは米国にイランの脅威を強く訴えたが、米国は真剣に取り合わなかった。
イランは、米国とサウジの間にすきま風が吹いていることを正確に認識し、サウジ内のシーア派を煽動して、サウジの王制の弱体化を画策し始めた。1月2日にサウジが、シーア派指導者のニムル師を処刑したのは、イランと米国に対して、「これ以上、事態を看過することはない」という姿勢を鮮明にするシグナルでもあった。しかし、米国はこのシグナルを読み取れていない。
今後、中東の政治、軍事、経済の危機、さらにエネルギー危機もサウジが震源地となる可能性が高い。原油価格が国際的に低迷しているにもかかわらず、サウジは原油の減産をしない。それは、シェアの確保をサウジが重視しているからだ。サウジの財政危機が伝えられているが、サウジは人口が少なく、原油価格が1バレルあたり30~40米ドルの間で推移しても、国家が破綻することはない。