三菱グループの企業は、三綱領(グループで共有する『所期奉公』『処事光明』『立業貿易』)のうち『立業貿易』の理念のもと、海外で活躍できる人材の育成に余念がない。例えば商事の場合でいえば、事業のグローバル化を強化する目的で、「若手のうちに全員一度は海外経験を積む」という方針のもと、海外のビジネススクールに派遣され、実務研修を実施する制度がある。
もちろん他の企業でも同じような制度はあるだろう。だが違うのは、「ウチが日本を代表する商社であり、自分がその代表であるという自負」(商事の40代社員)。そこには三菱独特のエリート意識が見え隠れする。
そして、愛社精神を養う大きな理由に待遇の良さがあるのも間違いないだろう。
「全社員の平均年収は1300万円超といわれている。いい暮らしをさせてもらっている分、会社のために頑張ろうという気持ちになります」(同前)
激務だろうとストレスの多いプロジェクトだろうと、この高給が保証されているのだから誰も「ブラック職場」などと思わないのは当然だ。三菱東京UFJ銀行の40代行員も口を揃える。
「年収は1300万円ほど。私は出世コースからは外れてしまったけど、これだけ貰っているから、何か会社の役に立たないと、と思います」
ちなみに、国税庁の調査(2014年)によると、40代男性の平均年収は約600万円である。
もうひとつ、三菱の社員が愛社精神が強い要素がある。三菱グループは「慶應閥」が強い。『週刊ダイヤモンド』によれば財閥系における慶應出身者の進路割合は、三菱33%、三井24%、住友17%だった。
「中でも三菱商事は三菱グループ内の他社と比較しても慶應閥が強い。各グループ会社に“三田会”(慶應のOB会)があり、慶應出身者同士で頻繁に連絡を取り合って情報交換している」(三菱商事出身の経済評論家・山崎元氏)
三田会は大学のOB会の中でも特別強い結束力を持つことで知られる。三菱社員のグループへの帰属意識の強さは、こんなところから養われているのかもしれない。
※週刊ポスト2016年3月4日号