1912年創業の名門企業・シャープが外資の巨大な力に翻弄されている。2月25日、シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入って経営再建を図ることを決めた。その前日、約3000億円超にのぼる「偶発債務(将来的に債務になる可能性のある潜在リスク)リスト」を鴻海側に伝達した。
これに激怒したのが鴻海グループの総帥である郭台銘・会長だ。「契約直前での開示は信義破りだ」と、2月末が期限だった交渉の延長をシャープ側に通告。日本の大手電機メーカーが初めて外資の軍門にくだる「世紀の買収劇」は、土壇場で大荒れの様相を見せている。
今年1月中旬までは、シャープには経営再建のパートナーとして産業革新機構と鴻海という2つの選択肢があり、この頃は「産業革新機構でほぼ決まり」と見られていた。だが、鴻海は1月18日、シャープに対する支援額をこれまでの5000億円から6500億円にまで引き上げ、巻き返しを図る。ジャーナリストの片山修氏の解説だ。
「実際、それまでシャープ経営陣の大勢は機構による支援に傾いていました。それが鴻海との合意へと形勢が逆転したのは、メーンバンクであるみずほ銀行が鴻海案を支持したことが大きい。機構案と違って、鴻海の提案は銀行に債権放棄を求めず、貸し手責任も曖昧にする銀行にとっては受け入れやすいものでした」
みずほ銀行が鴻海案を支持したのは、2000年頃から始まった鴻海との取引関係が影響しているといわれている。
「しかし、本当に注目すべきはシャープに当事者能力はないと見抜き、頭越しにメーンバンクを先に懐柔して外堀を埋めた郭会長の手腕でしょう。シャープの経営陣は海千山千の郭氏に太刀打ちできなかったのです」(同前)
2月5日には郭氏自身が大阪のシャープ本社を訪れ、約8時間、社長の高橋興三氏と会談。終了後に報道陣の前に現われ、「優先的に交渉できる権利にサインした」と“契約書”をかざしたため、多くのマスコミが〈交渉は鴻海優位に〉と報じた。