その後、シャープは〈(鴻海に)優先交渉権を与えたなどの報道がありましたが、そのような事実はありません〉とコメントを発表。郭氏がかざしたのは契約書ではなく、〈最終的な契約の条件について、適時かつ誠実に協議を継続する〉とした合意書だった。
メディアを利用して「鴻海優位」の既成事実を作り上げ、シャープにプレッシャーをかけていったのである。
こうした強引な手口にはシャープの経営陣内でも意見が分かれていた。2月25日、高橋社長は鴻海の支援受け入れ決議は取締役会で「全会一致」だったと話したが、これに疑義を挟むのは、ジャーナリストの井上久男氏である。
「私が知る限り、一部の生え抜きの取締役に加え、メーンバンクのひとつ三菱東京UFJ銀行出身の取締役も腹の中では反対だった。彼らは経営陣や銀行に責任を取らせないという鴻海の条件に違和感を覚えていたが、実はこの案のスキームを作ったのはみずほ銀行でした。
最終的に議事録では“全会一致”にしただけで、みずほ銀行の暗躍による一連の強引なやり方は、メーンバンク2行の足並みの乱れを露呈させ、今後のシャープ再建に影を落としかねないものです」
この指摘に対し、みずほ銀行の幹部は「シャープに鴻海案を推奨したことも、鴻海案の作成に加わった事実もない」と否定した。
※週刊ポスト2016年3月18日号