ライフ

職場でのヘイトスピーチで名誉毀損は成立? 弁護士見解

 在日朝鮮人をはじめ、特定の民族や人種を誹謗中傷するヘイトスピーチが社会的に大きな問題となっている。これが職場で飛び交っている場合、どのように対処したら良いのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。

【相談】
 残念なことに、職場で私の祖国の悪口が飛び交っています。仕事上でミスしたときも、私を責めたり、指導してくれればよいのに、祖国を侮辱する言葉を投げかけられます。その言葉の数々は聞くに堪えず、転職しようと思うのですが、国に代わって私が同僚たちを名誉毀損で訴えることはできますか。

【回答】
 外国の悪口で、その国の名誉を傷つける場合がありますが、政策や外交方針などに対するものであれば、言論の自由です。しかし、民族差別につながるような悪口は、人種差別として我が国も批准している人種差別撤廃条約に違反しますし、その結果、当該国の国民が不快の念を持つのは当然です。

 とはいえ、普通は個々の人に向けた発言ではありません。直接に権利侵害を受けた人でないと不法行為責任を問えないので、祖国への悪口を理由に、その国の国民個人が訴えることはできません。

 ところが、ご質問のように外国人労働者がいる職場で当該出身国の悪口が飛び交い、特にミスしたときに侮辱的言辞がなされるというのであれば、当該外国人労働者に対する嫌がらせの発言と解釈できそうです。その場合、悪口の内容によっては、外国人労働者は耐え難い屈辱や苦痛を味わうこともありえます。

 外国人学校に、いわゆるヘイトスピーチを繰り返した団体に対し、名誉毀損、業務妨害に該当する不法行為で、人種差別としても違法であるとして誹謗行為の中止や損害賠償を認めた裁判例があります。

 ご質問の場合も、悪口の程度や内容が当該個人に対するものといえるかなどで決まります。そこで悪口を録音し、その前後の状況を記録して、法務局の人権相談や弁護士会の法律相談で協力を仰ぐことも一つの方法です。

 また、悪口を上司が口にした場合は「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」としてパワハラにも該当し、放置すると会社に責任が生じる場合もあります。ともあれ、裁判提起ではなく、まずは会社に録音などを示して職場環境の改善を求めてはいかがですか。

【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。

※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号

関連キーワード

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト