2015年春の不正会計問題発覚以来、深刻な経営危機に瀕している東芝。経営陣の利益水増しという“チャレンジ”によって、社員たちは「天国から地獄」を味わっているという。一連の不適切会計を受け、経費節減はあったのか。
「出張の回数を減らすように、といわれますね。遠方の取引先を回るときには一度に回るようにしています」(30代の中堅社員・A氏)
20代の若手技術社員B氏が「セコい話ですが……」と前置きして話す。
「1日約1000円の出張昼食費補助まで『節約しろ』と上長がいうんです。とにかく節約するよう“チャレンジ”を要求されている(苦笑)」(東芝の広報・IR室は「昼食費補助の打ち切りは実施していない」と回答)
この15年間で東芝の危機は2001年のDRAM撤退(※注)、2008年のリーマン・ショック、そして2011年の東日本大震災と3回あった。
【※注/2000年末ごろからパソコンの記憶装置などに使われているDRAMの価格が下落したことにより、2001年3月期決算で1763億円の赤字を記録。それにともない、2001年12月、汎用DRAM事業からの撤退を発表。米国での生産拠点だった子会社の売却などを行なった】
かつて会社の中枢である経営企画部に在籍した50代のベテラン社員C氏が振り返る。
「事業所内の蛍光灯だって間引かれていた部署があります。川崎の事業所はこの冬、受付フロアの暖房が切られているのか、寒くて仕方なかった。来客には『エントランスではコートを脱がないで』とお願いしていたほどです。苦境があるたびに経費節減の通達があるから、現場はもう“絞りきった雑巾”ですよ」
A氏も苦笑する。
「提携しているフィットネスジムも昔は1回500円で使えたのに、今では約3000円と単なるビジター料金になった」
経営改善のために福利厚生が絞られるのは東芝に限ったことではない。が、優良子会社だった東芝メディカルシステムズをキヤノンに売却したことには、社員から批判が相次いだ。
「これからの高齢社会を考えればまさに“虎の子”。目の前の収支改善のためだろうけど、あまりにもったいない」(C氏)
「白物家電も中国の『美的集団』に売却が決定している。テレビなど家電事業のいくつかは残るけど、それらの製品も、中身は海外メーカーで製造されたもの。かつてのプライドはもうありません」(A氏)
白物家電売却についてB氏は率直な感想を漏らした。
「家電を持たない半導体と原発の会社が『サザエさん』のスポンサーというのもなんか変ですよね(笑い)」
※週刊ポスト2016年4月8日号