「年に1本ペースで覚えてきたけれど、最近はいままでやった演目をこなれた形にしたいという思いが強くなってきた。覚え方としては、まず噺を飽きるまで繰り返し聞いて、文字に起こします。志ん生師匠なんて何を言っているかわからないところもあるので、本で補完したりしながら、1冊の台本に仕上げます。それを自分の声で吹き込んで、今度は耳で覚えていくんです」
着物に羽織で高座に上がる風間には、すでに大御所の風格がそなわっている。舞台やドラマ、映画で忙殺されているにもかかわらず、なぜ風間は一級の落語家となりえたのか。
風間は、1970年代から80年代にかけて、演出家のつかこうへいの下で活躍していた。落語家としても、つかからの薫陶があったのだと風間は言う。
「つかさんから叩き込まれたのは、『その役者がつまらないのは、そいつが人間としてつまらないからだ』ということでした。つまり僕がチャーミングじゃなきゃ、僕の落語は受け入れられない。古典落語のおもしろい噺であっても、おもしろくない人が語ると、おもしろくなくなっちゃうんです」
風間の魅力とは、半世紀に及ぶ役者人生がもたらす分厚い人間力に他ならない。それが落語に何とも言えない深い味わいをもたらしているのである。
◆かざま・もりお/1949年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部(演劇専修)を経て、1977年よりつかこうへい作品に出演し人気を博す。1983・84年日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、1989年日本アカデミー賞優秀主演男優賞、2003年文化庁芸術祭賞演劇部門大賞など多数受賞。2010年紫綬褒章受章。6月29日からは東京・池袋の「あうるすぽっと」で、一人芝居『正義の味方』が上演。
撮影■江森康之 取材・文■一志治夫
※週刊ポスト2016年4月15日号