ギリシャの財政危機や中東からの移民問題など、近年、EUには試練が相次いだ。そこで英国で高まったEU離脱論。6月の国民投票でその是非が問われる。しかし、なぜ英国はそこまで強気に出ることができるのか。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が、その歴史的背景から、ニュースを読み解く。
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6月23日に英国で、同国がEU(欧州連合)に残留するか、脱退するかについての国民投票が行われる。
EUの本質は、その歴史的経緯からも明らかなようにドイツとフランスを枢軸としたヨーロッパ帝国の形成である。この枢軸からは距離を置いているとはいえ、英国がEUから離脱すれば、強力な遠心力が働き、EUが弱体化することになる。
それはヨーロッパ帝国の崩壊につながる。このことに対する恐れが、EU指導部にある。それだから、EUはキャメロン首相が申し入れた改革案を大筋で受け入れた。改革案は、以下の内容だ。
〈・ユーロ非加盟国は、ユーロ圏の財政安定の緊急措置で財政負担を負わない
・中小企業向けの規制緩和を進め、競争力向上の政策を点検する
・英国はEUの政治的統合の深化に関わらない
・加盟国議会の55%の反対でEU法案を阻止可能に
・EU域内の移民労働者の社会保障給付を最大4年間制限することを7年間認める
・英国が国民投票でEU離脱を選んだ場合、合意内容は無効に〉(2月21日「朝日新聞デジタル」)
客観的に見て、EUはこれ以上の譲歩を英国に対して行うことは出来ない。特に共通通貨ユーロの非加盟国は、「ユーロ圏の財政安定の緊急措置で財政負担を負わない」と合意したことによって、今後生じうるギリシャやポルトガルなどの財政危機の影響から英国は免れることができる。
また、「英国はEUの政治的統合の深化に関わらない」との言質をとったので、今後、EUの意思によって英国の内政的、外交的選択が制約されることもなくなる。合理的に考えるならば、これで英国がEUから離脱しなくてはならない理由はなくなるはずだ。しかし、英国内の受け止めは複雑なようだ。