〈キャメロン首相は20日朝、週末にもかかわらず閣議を招集し、首脳会議で決着したEUの改革案を説明した。閣議後、「2017年末までに」と公約していた国民投票を今年6月23日に実施すると発表した。EUに英国の要求をのませたとアピールし、その勢いで残留の結論を得る狙いだ。/先立つ19日深夜、夜を徹した2日間の首脳会議を終えたキャメロン首相は、「私は英国がEUの中で『特別な地位』を得られるよう交渉してきた」とツイート。続く記者会見で、「全身全霊で残留へと世論を説得したい」と語った。EUの大統領にあたるトゥスク常任議長も英国をEUに引き留めるべく、キャメロン氏との交渉で譲歩したという。/一方で、離脱派も動く。EU首脳が大詰めの交渉をしていた19日夜、ロンドン中心部では離脱派の大規模な集会が開かれた。/離脱派の先頭に立つ英国独立党(UKIP)のファラージュ党首が、「EUは燃えさかるビルだ。いっしょに出よう」と呼びかけると、大きな拍手が起きた。/与党・保守党も一枚岩ではない。英BBCによると、キャメロン氏と親しい党の重鎮、ゴブ法相が離脱派についたという。別の英メディアは約300人の保守党下院議員のうち、半数が離脱派との独自集計を公表している。/各社の今月の世論調査では、残留36%対離脱45%(YouGov社)、残留43%対離脱39%(ICMリサーチ社)などと、両派が競り合っている。〉(2月21日「朝日新聞デジタル」)
日本のマスメディアは、まったく言及していないが、英国のEU離脱問題は、スコットランド独立問題とも密接な関係を有している。
スコットランドにおいては、英国からの独立を主張するスコットランド国民党が、英国下院選挙でスコットランドに割り当てられた59議席中、56議席を占めている。近未来に、英国からの独立の是非を問う住民投票がスコットランドで行われた場合、独立支持が過半数を占める可能性が十分にある。
独立を宣言したスコットランド共和国は、EUへの加盟を申請する可能性が高い。なぜなら、スコットランドが独立する場合、通貨問題は決定的に重要になるからだ。スコットランドが独自通貨を発行しても、国際的な信用をほとんど得られない。英国からの独立を主張している建前から、英ポンドを継続して使用することは政治的に難しい。
独立国スコットランドは、EUに加盟してユーロを使用するというシナリオを選択する可能性が高い。EUへの新規加盟は、現在の加盟諸国の1カ国でも反対すれば実現しない。
各国が拒否権を持っているのだ。英国がEUに残留していれば、スコットランドの加盟申請に対して拒否権を発動する。
しかし、英国がEUを離脱してしまえば、スコットランドのEU加盟を阻止する手段を英国は持たなくなる。スコットランドの独立を避けるためにも英国はEUに残留し続けなくてはならないのだ。
英国独立党のファラージュ党首が指摘する「EUは燃えさかるビルだ」という認識に間違いはない。しかし、英国がEUから離脱しても、国際テロリズム、難民問題、国際金融危機などの炎は英国にも降りかかってくる。
EUからの離脱問題がどのような結果になろうとも、英国はこれからコモンウェルス(英連邦)の経済的連携を強化するという方向に向かうであろう。英連邦とは、大英帝国の旧植民地のネットワークだ。英連邦という大英帝国の遺産が現在も生きているので英国はEUに対して強く出ることが出来るのだ。
【PROFILE】さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。小誌で半年間にわたって連載した社会学者・橋爪大三郎氏との対談「ふしぎなイスラム教」を大幅に加筆し『あぶない一神教』(小学館新書)と改題し、発売中。
※SAPIO2016年5月号