「要するにね、僕は不誠実なことが嫌いなのよ。今回の件も、僕が息子を社長にしたがっているという報道が出た。息子を社長にしたいだとか、そんなこと全く考えない。息子だって社長になることは考えていないはず。誰かが社内で噂を流したのかもしれないが、息子本人もびっくりしている」
世襲説が表面化したのは、取締役会に先立ち、“物言う株主”として知られる外資系ファンド「サード・ポイント」がセブン&アイに送った井阪社長退任に反対する書簡だ。そのなかで、
「鈴木会長がご子息である鈴木康弘氏を将来のセブン-イレブン・ジャパン社長に、そしてやがてセブン&アイ・ホールディングスのトップに就ける道筋を開くという別の噂も耳にしています」
とした上で、「この噂が真実だとすれば、鈴木会長のトップとしての適性と判断力に重大な疑問が生じ、会長が御グループのために的確な判断を下しているかどうかが疑われることになります」と批判していた。
それに対して鈴木氏は、社内に噂を流した人物がいることを匂わせながら明確に世襲説を否定したわけだが、だとすると井阪社長退任案は何のためだったのか。
「今の社長(井阪氏)は自分が社長に選んだし、育てようとしたけれど、一つ一つの小さい店舗をどんどん伸ばしていくためには、新しいことをどんどん提案していかないといけない。井阪くんはそういう提案力は乏しかった。決してケンカしたわけではないが、7年も務めたから交代して、もっと積極的に新しいことに挑戦する人間に軸になってもらおうと考えたんです。7年の間に会社の利益は最高益になったが、それも彼がやったわけではない」
その上で、退任案が取締役会で拒まれた結果、自ら辞任を表明した理由をこう明かした。
「セブン-イレブンの創業については私が仕切ってやった。たくさんのオーナー(フランチャイズオーナー)がいるので、そこで(世襲説に関する)ウソを言ったりゴタゴタするようなことがあったら、オーナーや社員に申し訳ない。それで僕はすっぱり辞めた。誠実じゃないといけないと。お客さんに対しても誠実にしてくださいといつも言っている。ゴタゴタすることは本意ではない」
口調は穏やかだが、セブン&アイの好業績を一手に支えるセブン-イレブンについて「創業したのは私だ」という一言に、強烈な自負が覗く。それは、創業家に対するメッセージと受け止められる。
撮影■横溝敦
※週刊ポスト2016年4月29日号