山下:若冲の画法の特徴は、絹地の裏側からも色を塗り重ねて表面の色彩を際立たせる「裏彩色」を多用するところです。修復してみると、我々が考える以上に全面に施されていることがわかりました。
松井:時には裏にだけ色を塗るなど、若冲は裏側の処理が卓越していますね。裏の彩色が表面の色と重なることで、鮮やかで複雑な発色を生み出しています。
山下:そう、だから極彩色の『動植綵絵』は絹でないとできなかった。松井さんは制作中の新宿瑠璃光院・白蓮華堂の襖絵を始め、早くから絹に描いていますね。
松井:西洋美術の影響で戦後は日本画も絹に描くのは時代遅れとされてきましたが、絹こそ日本画の本流。原点に戻りたいんです。
山下:若冲が『動植綵絵』などと並行して鹿苑寺の襖絵を描いていたのが、43歳の頃でした。
松井:私、今42歳です。襖絵で精一杯ですが、若冲に負けずに頑張ります(笑い)。
◆山下裕二(やました・ゆうじ):1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻・小学館刊)の監修を務める。日本美術応援団長。銀座・ヴァニラ画廊で開催中の『人造乙女美術館』の監修も務めた。
◆松井冬子(まつい・ふゆこ):1974年生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科・博士後期課程美術専攻日本画研究領域修了。 博士号取得。日本画家。新宿瑠璃光院・白蓮華堂の48面の襖絵を制作中。2017年1月に完成予定。
■撮影/太田真三 構成/渡部美也
※週刊ポスト2016年5月20日号