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【書評】昭和の時代に存在した仕事「押し屋」「金魚屋」など

【書評】『イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑』/文・澤宮優/イラスト・平野恵理子/原書房/本体2200円+税

澤宮優(さわみや・ゆう):ノンフィクション作家、書評家、エッセイスト。主な著書に『昭和の仕事』(弦書房)など。
平野恵理子(ひらの・えりこ):イラストレーター、エッセイスト。主な著書に『にっぽんの歳時記ずかん』(幻冬舎)など。

〈昭和を象徴するか、昭和に消えた仕事、昭和に全盛期を迎えた仕事〉115を、見開き単位で文章とイラストで描いた図鑑風の作品。

 今では懐かしい職業の数々が紹介されているが、なかには“こんな仕事まであったのか”“こんなものまで職業として成立していたのか”と思わせるものもある。

 坂の下から大八車を押すのを手伝う「押し屋」(「立ちん坊」とも言う)、仕事内容は文字通りの「井戸掘り師」、旧暦と新暦を並記した暦を売る「おばけ暦売り」(明治維新から戦前まで旧暦の発行が禁止されたため非合法の商売で、それゆえ「おばけ」と名付けられた)、公園などで穀類膨張機という機械に米、トウモロコシなどを入れて作った菓子を子供たちに実演販売する「ポン菓子屋」……。

 どれも技術革新やそれに伴う生活様式の変化などによって新しい仕事に取って代わられたが、そのことは単に仕事の交替だけを意味しない。

「下宿屋」、あるいは客の家を直接訪ねて売る様々な「行商」の衰退は人間関係の希薄化を象徴し、アイスキャンディー屋、氷屋、金魚売りなどの衰退は都会人の季節感の喪失を物語り、様々な職人仕事の衰退は伝統文化と伝統技術の消滅を意味する。楽しく、懐かしい気分にさせられる本だが、失われたものの大切さに思いが至り、愕然とする。

 かつて街中で、泣きながら嘘の哀しい身の上話を披露し、同情する通行人に品物を売る「泣きばい」と呼ばれる仕事があった。詐欺の一種だが、現代の振り込め詐欺などと違い、どこか人間味があり、許せてしまう……と思うのは郷愁に浸りすぎだろうか。

 写実的だが、温かみのあるイラストもいい。

※SAPIO2016年6月号

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