埼玉県をテーマにしたギャグマンガ『翔んで埼玉』(宝島社)が、異例の55万部という大ヒットを記録し、話題を呼んでいる。『パタリロ!』(白泉社)で知られる漫画家・魔夜峰央が1982年に描いた作品の復刻だが、その舞台設定が“あんまり”なのだ。
「東京都民」と「埼玉県民」の間に強烈な格差が存在する世界で、埼玉県所沢市出身の主人公がその「埼玉差別」に立ち向かうというストーリー。
〈埼玉から東京へ行くには通行手形が必要〉〈都内で勝手に行動すると、埼玉狩りに遭って強制送還される〉〈都内で事故に遭っても埼玉県民は救急車が呼ばれない〉といった“法律”が主人公に立ちはだかる。
表紙には「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」という扇情的なコピーが書かれている。
そうした内容に当然埼玉県民は怒り心頭かと思いきや、宝島社の担当者によると「売り上げの3割は埼玉県が占めている」とのこと。「東京に対する劣等感」という埼玉県民ならではの心情を絶妙な力加減でくすぐったようだ。
だが、この「埼玉本」以上に局地的ヒットとなっている「ご当地マンガ」がある。
それが北隣の「群馬県」を舞台にしたマンガ『お前はまだグンマを知らない』(井田ヒロト著、新潮社)。“地球上に唯一残された秘境”群馬の高校に転校してきた高校生が、始業の際に「起立・“注目”・礼・着席」という群馬の風習を知らず糾弾されるなど、カルチャーショックを受ける様を描いた作品だ。
こちらもシリーズ累計で50万部突破なのだが、驚くべきことに「その大半が群馬で売れていて、前橋の紀伊國屋書店さんでは『ワンピース』や村上春樹さんの売り上げ冊数を上回りトップになったそうです」(作品連載中の『コミック@バンチ編集部』)とのこと。同県出身のお笑い芸人・パックンマックンのマックンも愛読者。
「印象的なのが、『群馬に向かうJR高崎線は籠原駅以降ドアが開かなくなる』という話。自動ではなくボタンを押して開閉するんです。私は当たり前のように感じていましたが、主人公が『降ろしてもらえない!』とパニックになっているのが面白かった(笑い)」
ベストセラーでも群馬県民しか読んでいないから、全国的には「まだグンマを知らない」ままなのだ。
※週刊ポスト2016年6月3日号