国際情報

トランプというトリックスターが大統領候補に選ばれた理由

差別発言を繰り返すトランプ氏を批判する市民も多い AP/AFLO

 差別発言を繰り返し、下品で、乱暴で、外交に疎く政策にもみるべきものはないといわれる不動産王のドナルド・トランプ氏が、共和党大統領候補としての指名獲得をほぼ確定させた。なぜ、アメリカ市民はこのような選択をしたのか? ジャーナリストの落合信彦氏が、アメリカ市民が抱える絶望と怒りについて解説する。

 * * *
 2014年、アメリカで「スミス・プロジェクト」というものがあった。「スミス」とは、よくある名前、日本で言えば「佐藤さん」「鈴木さん」のようなものだ。

 このプロジェクトは、「シチズン・スミス」、つまり「頭が切れて、政府をきちんとコントロールできる能力を持った誰か(スミス)」がどんな人物であるべきかを探るためのアンケートが主軸となっていた。調査は、アメリカ全土で行われた。

 そのアンケート結果が衝撃的だ。まず、66%の人が「アメリカはもう崩壊している」と答えている。以下、列記しよう。

・56%が「アメリカに未来はない」
・78%が「民主党と共和党の人々に、スペシャルインタレスト(利権)がコントロールされている」
・71%が「連邦政府は機能不全どころか、崩壊しつつある」
・84%が「現在の政治家たちは特権にしがみついている」
・80%が「民主党と共和党は経済政策で失敗した」
・86%が「政府は国民とのコンセンサスをまったく考えていない」
・79%が「選挙ではレギュラーシチズンズ(普通の市民)が議員に選ばれるべきである」
・80%が「いま選挙があったら、現役の議員をすべてやめさせるべきだ」

──この結果から見えてくるのは、アメリカ市民の未来への絶望感と、政治家たちへの凄まじい怒りである。アンケート結果のリポートでは「反乱」と表現されるほどだ。

 つまり、いまの大統領選挙は「コンサヴァティブかリベラルか」というイデオロギー対立ではない。「市民vsエスタブリッシュメント」がテーマであることを示している。

 現在のアメリカは、政治と産業界の癒着が酷すぎる。多くの政治家たちが利権を漁り、表にできないカネをポケットに入れている。そして、市民はそれに「反乱」し始めた。だが、そこから生まれてきたのは「スミス」ではなく「トランプ」だった。

 トランプは「いまの政治家たちは企業からカネを受け取って選挙を繰り広げている。私は自分の資産を使っている。企業とは癒着しない!」と言い放って、エスタブリッシュメントに怒る市民から喝采を浴びた。

 腐敗政治とそれに対する市民の反乱は、トランプというトリックスターを大統領候補に押し上げてしまった。

 アメリカ市民はトランプを大統領にしてしまったら、数年後には、アンケートの結果以上にますます「連邦政府が崩壊」して、「アメリカに未来はない」という絶望の淵に立たされることになるだろう。

※SAPIO2016年7月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

日米通算200勝を達成したダルビッシュ有(時事通信フォト)
《ダルビッシュ日米通算200勝》日本ハム元監督・梨田昌孝氏が語る「唐揚げの衣を食べない」「左投げで130キロ」秘話、元コーチ・佐藤義則氏は「熱心な野球談義」を証言
NEWSポストセブン
ギャンブル好きだったことでも有名
【徳光和夫が明かす『妻の認知症』】「買い物に行ってくる」と出かけたまま戻らない失踪トラブル…助け合いながら向き合う「日々の困難」
女性セブン
破局報道が出た2人(SNSより)
《井上咲楽“破局スピード報告”の意外な理由》事務所の大先輩二人に「隠し通せなかった嘘」オズワルド畠中との交際2年半でピリオド
NEWSポストセブン
河村勇輝(共同通信)と中森美琴(自身のInstagram)
《フリフリピンクコーデで観戦》バスケ・河村勇輝の「アイドル彼女」に迫る“海外生活”Xデー
NEWSポストセブン
《私の最初の晩餐》中村雅俊、慶応大学に合格した日に母が作った「人生でいちばん豪勢な“くずかけ”」
《私の最初の晩餐》中村雅俊、慶応大学に合格した日に母が作った「人生でいちばん豪勢な“くずかけ”」
女性セブン
『君の名は。』のプロデューサーだった伊藤耕一郎被告(SNSより)
《20人以上の少女が被害》不同意性交容疑の『君の名は。』プロデューサーが繰り返した買春の卑劣手口 「タワマン&スポーツカー」のド派手ライフ
NEWSポストセブン
ポジティブキャラだが涙もろい一面も
【独立から4年】手越祐也が語る涙の理由「一度離れた人も絶対にわかってくれる」「芸能界を変えていくことはずっと抱いてきた目標です」
女性セブン
生島ヒロシの次男・翔(写真左)が高橋一生にそっくりと話題に
《生島ヒロシは「“二生”だね」》次男・生島翔が高橋一生にそっくりと話題に 相撲観戦で間違われたことも、本人は直撃に「御結婚おめでとうございます!」 
NEWSポストセブン
木本慎之介
【全文公開】西城秀樹さんの長男・木本慎之介、歌手デビューへの決意 サッカー選手の夢を諦めて音楽の道へ「パパの歌い方をめちゃくちゃ研究しています」
女性セブン
大谷のサプライズに驚く少年(ドジャース公式Xより)
《元同僚の賭博疑惑も影響なし?》大谷翔平、真美子夫人との“始球式秘話”で好感度爆上がり “夫婦共演”待望論高まる
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
男装の女性、山田よねを演じる女優・土居志央梨(本人のインスタグラムより)
朝ドラ『虎に翼』で“男装のよね”を演じる土居志央梨 恩師・高橋伴明監督が語る、いい作品にするための「潔い覚悟」
週刊ポスト