この結果に対して、筆者だけでなく多くの人が「やっぱり」と思ったのは間違いない。ソフトバンクの社員の大半も、バトンタッチの日が来ることに懐疑的だった。なぜなら、孫氏は“全身経営者”といえるほどの、根っからの「経営好き」だからだ。
創業者は引退を決断できないという。ソフトバンクの社外役員のユニクロ・柳井正氏も65歳で引退するとし、一時は社長を辞任したが、結局後継者を解任、社長に復帰した。先日、トップの座を去ったセブンイレブンの創業者、鈴木敏文氏にしても、「代われる人材がいたらいつでも辞める」と言いながら、83歳まで第一線で指揮を執り続けた。
彼らに共通するのは、トップだけが感じる危機感だ。柳井氏の場合、いまスピードを緩めてはライバルたちとの国際競争に負けてしまうという思いが強かったため、成長より内部固めを優先しようとした後継者を許せなかった。
鈴木氏は「過去の成功の延長線上には未来がない」と考える経営者だ。しかし過去の成功を切り捨てる勇気を持つ後継者が現れないため、本人にしてみれば、やむなく続投した。それこそが会社の利益に適うと信じての行動だった。
孫氏は違う。危機感も当然あるだろうが、それ以上に経営が大好きなのだ。「経営ほど面白いものはない」。以前、孫氏が筆者に対して言った言葉だ。しかもいま、世の中は大きく動いている。成長のチャンスがいたるところに転がっている。「こんな楽しいことを人に任せていられるか」。孫氏がそう考えるのも無理はない。
孫氏は今後5~10年は社長を続け、当面、後継者のことは考えないという。それでもいまのところは「69歳までには社長交代する」と、人生50年計画の「60代で継承」との旗は降ろしていない。しかしその一方でこんなことも言っている。「69歳になっても結構アクティブに続けているんじゃないか」
これが孫氏の本音である。ソフトバンクグループの社長交代は相当先のことになりそうだ。