孫正義一覧

【孫正義】に関するニュースを集めたページです。

ソフトバンクグループ・孫正義氏の命運を左右する「投資銘柄リスト」を検証
ソフトバンクグループ・孫正義氏の命運を左右する「投資銘柄リスト」を検証
 ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンクG)の2022年3月期連結決算(国際会計基準)は、純損益が1兆7080億円の赤字。原因は、2017年に「10兆円ファンド」として鳴り物入りで立ち上げた投資事業「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」にある。ソフトバンクGの投資先企業の株価が急落したことで巨額の損失を計上。昨年の決算発表時は26.1兆円あった時価純資産(※)は、18.5兆円となり、たった1年間で約7兆6000億円も減少してしまった。【図解】1年間で約7兆6000億円も資産価値が減少… ソフトバンクグループの現状【※投資会社や投資ファンドが企業の価値や業績を評価する際の指標で、時価で計算した資産総額から負債を差し引いた金額のこと】 2020年2月の決算報告会では、自らを「冒険投資家と呼んでください」と語ったこともある孫正義社長(64)。その“冒険”を左右する「投資先」にはどんな企業があるのか。グローバルリンクアドバイザーズ代表の戸松信博氏が言う。「SVFの全体的な投資先の傾向としては、滴滴や米国のウーバーなど『配車サービス』のウェートが大きい印象です。また孫さんは自身が感動できるかなど『直感に頼る』ことが多く、現時点での企業規模や成功よりも将来の“AI革命”に繋がるかを大事にしているようです。 孫さんの企業を見る目はたしかで魅力的な投資先が多いと思います。ただ、未上場の企業も多いため投資環境に影響されやすい。今後どう転ぶかはまだ分かりません」 SVFの投資先は延べ300社以上に及ぶ。投資額の多い上場企業の一部をこの1年間の評価額の推移とともに別表にまとめた。大幅に値を下げた企業が多かったが、共通するのがどの企業も独自のアイデアを持つIT企業ということだ。 表に掲載した投資先以外でも、スウェーデンのクラーナは後払い決済の企業で、無利子で分割払いや30日後の後払いが可能になるサービスでデビット・クレジットを代替する新たな決済方法として注目を集めている。ノルウェーのオートストアはロボットによる倉庫の自動化を進める企業。人の動線を考慮する必要がないため、省スペースでの高密度保管を実現した。 またSVFは韓国企業にも多額の投資をしている。経済ジャーナリストの後藤逸郎氏が語る。「今回の決算で1兆6000億円と最大の下落幅となったクーパンは“韓国のアマゾン”と言われるネット通販会社です。昨年1870億円を投資したヤノルジャは、国内最大の旅行・宿泊アプリを運営する企業ですが、客室予約管理システム分野の成長を活かしてIT企業としてさらなる成長が見込まれています」 日本企業への投資は少ないが、ヤノルジャと同様に日本国内で宿泊予約サイトを運営するタビストにも出資しており、レジャー産業のAI化を進める企業には積極的に投資する傾向が見て取れる。 ソフトバンクGの業績が再び上昇曲線を描くには、こうした企業の成長に加えて投資環境の好転などの要素が必要になる。「しばらくは新規開拓には慎重になるでしょうから、現状を打破する方法は、SVFが巨額の資金を突っ込んだ投資先のどこかが昔のアリババのように“大化け”すること以外ない。これまで日本で世界規模の資本家になれた経営者は1人もいません。日本の将来のためにも孫さんには頑張ってほしいですが、現状はあまりにも悲観材料が目立ちますね」(経済ジャーナリストの大西康之氏) 日本企業にありがちな安定や堅実性を重視する旧来型の経営者とは、一線を画す孫氏。“冒険投資家”の命運やいかに。※週刊ポスト2022年6月3日号
2022.05.28 07:15
マネーポストWEB
ソフトバンクG・孫正義氏の不安要素となる「米国利上げ」と「アリババ一本足打法」
ソフトバンクG・孫正義氏の不安要素となる「米国利上げ」と「アリババ一本足打法」
 ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンクG)の2022年3月期連結決算(国際会計基準)は、純損益が1兆7080億円の赤字となった。好調な携帯事業がありながら減益になった原因は、2017年に「10兆円ファンド」として鳴り物入りで立ち上げた投資事業「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」にある。【図解】1年間で約7兆6000億円も資産価値が減少… ソフトバンクグループの現状 今年に入ってから米国の利上げ方針やロシアのウクライナ侵攻を受けて、ソフトバンクGの投資先企業の株価が急落したことで巨額の損失を計上。昨年の決算発表時は26.1兆円あった時価純資産(※)は、18.5兆円となり、たった1年間で約7兆6000億円も減少してしまった。【※投資会社や投資ファンドが企業の価値や業績を評価する際の指標で、時価で計算した資産総額から負債を差し引いた金額のこと】 孫正義社長(64)はIT起業家として名を馳せてきたが、現在の実態は巨大ファンドを運営する「資本家」だ。そして、投資には当然ながらリスクがつきまとってくるのだ。 ソフトバンクGには顕在化しかねない2つの「不安要素」がある。1つは、すでに株価下落の引き金となっている米国のさらなる「利上げ」だ。経済ジャーナリストの大西康之が語る。「孫さんの“天敵”になりそうなのが、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長です。米国はリーマンショック以降、量的緩和を続けて株高を下支えしてきましたが、やっと覚悟を決めてインフレ対策のための本格的な金融引き締めに入った。今回は腰を据えて、多少強引にでも利上げを続けるでしょう。SVFの投資先は多くが米国市場に上場するスタートアップ企業のため、この流れは非常に厳しい」 そしてもう1人“天敵”になりそうなのが、中国の習近平国家主席だ。経済ジャーナリストの後藤逸郎氏が解説する。「いまは保有している株が軒並み下がっている状態ですが、近い将来さらに大きなリスクとなるのが今回9000億円以上の損失になった配車サービスの滴滴出行(DiDi)に象徴される中国株です。孫さんは以前から地政学的リスクを考慮せず“中国は伸びる”という考えでどんどん投資してきたが、中国当局の規制による滴滴の大暴落で中国企業に対する出資の成功パターンは崩壊した。 さらにグループの保有資産の22%は中国ネット通販大手のアリババの株式です。2000年に20億円を投資し、約20年で10兆円近くの含み益を得た最大の成功例ですが、アリババの“一本足打法”は非常にリスクが大きい」 孫氏が将来性に惚れこみ、数分で巨額の投資を決めたという逸話があるアリババも近年は中国当局のハイテク企業取り締まりのターゲットになり、創業者のジャック・マー氏が「当局批判」後に一時、姿をくらますなど先行きは不透明だ。 こうした不安が現実のものとなれば、ソフトバンクGはかつてない苦境に追い詰められる。「いまはまだ大丈夫ですが、問題は個人投資家やメインバンクなどの機関投資家にそっぽを向かれた時です。彼らが『これ以上ついていけない』と判断する状況になると、ソフトバンクGは終わってしまう。いまはその瀬戸際にあると思います。 巨額の投資をしてマーケットと表裏一体の企業になった以上、将来的な経営破綻の可能性は十分にある。ただ孫さんはネットバブルの崩壊を見てきているので、それは理解しているはず。だから会見で『守りに徹する』と繰り返し語ったのでしょう」(大西氏)※週刊ポスト2022年6月3日号
2022.05.27 06:15
マネーポストWEB
孫氏はプーチンに対し「彼はまったく別人になってしまった」とも語っていたという(時事通信フォト)
孫正義氏、山下泰裕氏 プーチン氏の親日イメージ作りに利用されたか
 思い返せば、プーチン大統領の非人道的なウクライナ侵略は2014年のクリミア併合から始まった。だが、日本には、併合後もプーチン氏の甘言に騙され、たらし込まれた協力者たちがいる。 その筆頭が安倍晋三・元首相だろう。北方領土返還に意欲的だった安倍氏は、首相在任中、プーチン氏と27回の首脳会談を行なった。領土交渉では国の「四島返還」方針を「二島返還」へと事実上転換して譲歩を重ねた。その年5月の日露首脳会談では8項目の経済協力を表明し、カネも出したが、結局、成果はなかった。まんまと騙されたのだ。 プーチン氏に近いとみられてきた人物たちはいま、一斉に離れている。「彼はまったく別人になってしまった。いったい何がどうなったんだろうと。わけがわからないが悲しい」 そう語ったのは孫正義・ソフトバンクグループ会長兼社長。プーチン氏とは大統領就任前日に面会して以来、何度も会談したとされる。クリミア併合後にプーチン氏が来日(2016年)した際には経済界との会合で親しげに並んで立ち話。「大統領から『ロシアに来てほしい』と言われたので、5月前後に行こうかと思う」と語っていた。 ソフトバンクは、日本海に海中ケーブルを敷設してロシアの極東・シベリア地域の安い水力発電を日本、中国、韓国に送るアジアスーパーグリッド構想を推進してきた。 同社広報室では、「アジアスーパーグリッド構想の一部であるロシア経由ルートは、2017年を最後に具体的な検討や協議はなされておりません。今回のウクライナへの侵攻はまったく受け入れられるものではない」という。 また、柔道好きで知られるプーチン氏が「最も尊敬する日本人」に挙げる柔道家の山下泰裕・日本オリンピック委員会会長は、「皆さんが思っておられるほど親しいわけではない。ロシアでは、そう錯覚している人が多いですけど」と会見で個人的関係を否定した。 企業経営者が経済活動のために外国首脳と親しくすることは問題ではなく、スポーツ選手や文化人はなおさらだ。むしろ、孫氏や山下氏は「プーチン氏の親日家としてのイメージ作り」に利用されたともいえる。※週刊ポスト2022年4月8・15日号
2022.03.29 16:00
週刊ポスト
孫正義氏が仕掛けた大博打「ボーダフォン日本法人買収」を振り返る
孫正義氏が仕掛けた大博打「ボーダフォン日本法人買収」を振り返る
【最後の海賊・連載第4回 後編】世界で名を上げた起業家には共通点がある。それは“リスク中毒”ということだ。楽天・三木谷浩史氏とソフトバンク・孫正義氏の人生は、時系列こそずれるが数奇なほど似ている。ではソフトバンク・孫正義氏が2006年に英ボーダフォンの日本法人を買収した時はどうだったのか。週刊ポスト短期集中連載「最後の海賊」、ジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。(文中敬称略)【表】1981年日本ソフトバンク設立、1996年合弁でYahoo!ジャパンを設立…、孫正義氏のこれまでの歩み * * *「いずれは売上高を豆腐のように1丁(兆)、2丁と数えるようにしたい」 1981年、留学先のカリフォルニア大学バークレー校から戻り福岡市博多区に「ユニソン・ワールド」を設立した孫は、みかん箱の上に乗り二人のアルバイトの前で演説をぶった。アルバイトの一人は「こいつ、大丈夫か」と心配になり、すぐに辞めた。「僕は天才ですから」 まだ顔にあどけなさが残る20代の孫は、取引先を大ボラで煙に巻きながら、会社を大きくしていった。ソフトバンクがパソコン・ソフトの卸売り会社だった頃から「我々が情報革命を起こす」と風呂敷を広げ、大衆の期待を煽った。 孫のリスク感覚は常人離れしている。1996年に米フォックス・テレビなどを傘下に持つ世界のメディア王、ルパート・マードックと組んでテレビ朝日の買収に乗り出したかと思えば、2000年にはバブル崩壊で経営破綻した日本債券信用銀行(日債銀、現あおぞら銀行)の株式を取得して世間をアッと言わせた。 そんな勝負師・孫が仕掛けた一世一代の大博打が2006年3月のボーダフォン日本法人買収である。買収総額1兆7500億円。この買収を実現するため孫はボーダフォンの資産を担保にしたLBO(レバレッジド・バイアウト、買収先の資産やキャッシュ・フローを担保にした資金調達による買収)に踏み切った。11月にはこの買収資金を借り換えるため、ソフトバンクモバイルの全資産とキャッシュ・フローを担保にした事業証券化で1兆4500億円の資金を調達している。 リスクを恐れる金融機関は厳しい「財務制限条項」をつけてきた。ソフトバンクの携帯電話の契約者数が計画通りに増えなかったり、細かく決められた負債返済スケジュールやEBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)の目標値などが達成できなかったりすればソフトバンクの経営の自由度はどんどん制限されていく仕組みだ。 しかも、競争相手は長年、日本の携帯電話市場を支配してきたNTTドコモと、経営の神様、稲盛和夫が率いる伸び盛りのKDDI(ブランド名は「au」)である。ボーダフォンのネットワークは二強に比べれば脆弱で「つながらない携帯電話」と言われていた。 ここで孫は腹を括る。 何がなんでも契約者を増やさないと財務制限条項に抵触してしまう。ソフトバンクは10月、携帯の番号持ち運び制度、「番号ポータビリティ(MNP)」の導入に合わせて「通話料、メール代ゼロ円」などとうたった新料金プランを大々的に打ち出す。ところがこの新料金プランに対して、NTTドコモの中村維夫社長が「複雑怪奇な料金システム」と噛みついた。 その矢先、10月28日にはMNPで解約・登録手続きを処理するシステムに障害が発生して一時、新規受付を停止。30日には孫自らがシステム障害の謝罪会見を開き、同じ日に公正取引委員会に呼び出されて「ゼロ円」キャンペーンの説明を求められた。11月1日には「ゼロ円」を強調したテレビCMなどの修正を余儀なくされる。 この時の孫はまさに、生きるか死ぬかの瀬戸際にいた。ドコモとKDDIは明らかにソフトバンクを潰しに来ていた。かつては携帯電話会社を変えると電話番号が変わってしまうので、よほどのことがない限り、電話会社を変えることはなかった。しかしMNPの導入により、番号を変えなくても電話会社は簡単に変えられる。利用者は少しでも有利な料金プランに乗り換えようと躍起だ。最後発のソフトバンクは、少しでも手を緩めれば、あっという間に二強に顧客を奪われる弱い立場にあったのだ。 東京・箱崎のロイヤルパークホテルで開かれた記者会見の質疑応答で孫は、3時間にわたって延々と記者の質問に答えた。午後4時に始まった会見が8時を過ぎた頃、すまなそうにこう言った。「申し訳ないが予定の時間を過ぎてしまったので会場を空けなければならない。追加の質問があれば電話、ファックス、メールで問い合わせてもらえれば必ず答える」 質疑応答で手を挙げ続けたが当てられなかった筆者は、オフィスに戻ると電話で質問をした。午後10時、オフィスのファクシミリが音を立て、ソフトバンクからの回答を記した紙をゆっくりと吐き出し始めた。回答の最後には「孫正義」という手書きの文字があった。 別の日、個別取材でソフトバンクの本社を訪れると、孫は会議室のホワイトボードにサインペンで基地局やアンテナの絵を描き、「つながらない問題」がなぜ起きているか、それをいつまでに、どうやって解決していくかについて、口角泡を飛ばして説明した。 会社の信用とはシーソーのようなものである。特にギリギリのリスクを取って大勝負をしている時、投資家や金融機関は疑心暗鬼に陥りやすい。誰か一人が「ダメかもしれない」と後退りすれば、均衡が一気に「破綻」へと傾く。シーソーが傾かないように、孫は自分たちのビジネスプランの正しさを世間に必死にアピールしたのである。 ソフトバンクの携帯電話事業がようやく軌道に乗ったのは2008年。アップルのiPhoneの国内独占販売を始めた時からだ。しかし孫は安住しない。2012年には米3位の携帯電話会社、スプリント・ネクステルを1兆5700億円で買収し、再び投資家や債権者をハラハラさせるのである。 世の中を変える起業家のほとんどは、孫と同じようにリスク・ホリック(リスク中毒)だ。1994年創業のアマゾン・ドット・コムは1997年に上場したが、創業から約20年間、営業利益をほとんど計上せず、配当もほんのわずかしかしていない。この間、売上高は爆発的に増えたが、その大半をECの物流網整備や、新たな収益源となったクラウド・サービスを提供するAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)で使うデータ・センターの設備投資や研究開発に回してきたからだ。 機関投資家から「株主にも利益を還元すべきだ」とクレームが入ると、ジェフ・ベゾスはメディアを通じて不敵にこう言い放った。「我々は長期的な先行投資によって圧倒的な市場リーダーになるから、アマゾンの株価は間違いなく上がる。目先の利益が欲しいなら、株を売ればいい。後で後悔することになると思うが」 ベゾスの言葉通りアマゾンの株価は上昇し続け、今や時価総額は170兆円を超えている。ベゾスを信じて株を持ち続けた投資家は巨万の富を得た。 今や電気自動車(EV)の代名詞になったテスラのイーロン・マスクも2017年には「プロダクション・ヘル(生産地獄)」でもがいていた。EVを開発することと、量産することは全く意味が違う。ベンチャー企業にとって「一定の品質を保ちながらの大量生産」は最も苦手とするところだ。 生産現場では毎日のように新たな問題が発生し、解決すると次の問題が起きる。マスクは工場に寝袋を持ち込み、24時間体制でトラブルに対処した。この間、テスラの財務も地獄の様相を呈する。四半期の「キャッシュ・バーン(現金燃焼)」は1000億円規模に達し、投資家から調達した資金がみるみる燃えていく。ある米国の投資家は、この頃のテスラの株主の気持ちをこんな風に描写している。「鼻血が出そうな損失と、涙が出そうなキャッシュ・バーン、(新型車の発表など)頻繁に公表される胸躍るニュースに常に振り回される」 それでもマスクを信じた投資家は、想像を絶するリターンを得た。現在、テスラの時価総額は約75兆円。トヨタ自動車(約31兆円)の2倍以上だ。 三木谷は今、孫がボーダフォン買収で大勝負に出た2006年の段階にいる。孫が国内携帯電話事業を「金の成る木」に変えたように、三木谷も楽天モバイルで成功を収められるのか。一つだけ分かっているのは、今の日本で、有り金全てを賭けのテーブルに放り出すようなリスク・ホリックな生き方ができる男は、三木谷と孫の二人だけだ、ということである。 (第5回に続く)【プロフィール】大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。※週刊ポスト2021年9月10日号
2021.09.06 07:00
マネーポストWEB
世界を目指した孫正義氏にとって「コンパス」だったスティーブ・ジョブズ
世界を目指した孫正義氏にとって「コンパス」だったスティーブ・ジョブズ
【最後の海賊・連載第3回 後編】楽天・三木谷浩史氏とソフトバンク・孫正義氏の人生は、時系列こそずれるが数奇なほど似ている。楽天は携帯電話の完全仮想化技術「楽天・コミュニケーションズ・プラットフォーム(RCP)」を開発し、ドイツのインターネット会社1&1に提供するなど、海外に打って出るための布陣を着々と整えている。【表】1981年日本ソフトバンク設立、1996年合弁でYahoo!ジャパンを設立…、孫正義氏のこれまでの歩み そしていまから15年前、三木谷氏同様大手キャリアに挑み、世界の壁を壊しにかかった孫氏には“コンパス”となる男がいた。週刊ポスト短期集中連載「最後の海賊」、ジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。(文中敬称略) * * * 孫正義が世界に打って出たのは1994年11月。米国のコンピューター関連雑誌出版大手、ジフ・デービス・コミュニケーションズの展示会部門を2億200万ドル(約200億円)で買収した。「俺は情報革命を起こすんだ!」 そう叫んでいた孫が株式を公開して市場から調達した資金を最初に投じたのが出版社の展示会部門。意外な展開に世間は首を傾げた。「なぜ展示会なんですか?」。 私が尋ねると孫はニヤリと笑った。「いいか。未開のジャングルや大海原に乗り出す時、一番大事なものは何だか分かるか」「水、ですか?」「まあ、それもそうだが、道に迷ったらいずれ水もなくなるだろ」「ああ、そうですね」「コンパスだよ。目的地に辿り着くには、正しい進路を教えてくれるコンパスが必要だ。ジフ・デービスは私のコンパス。あるいは魔法の水晶玉になる」 1994年といえば、インターネットの爆発的な普及を促すマイクロソフトの「Windows95」が発売される前の年だ。「インターネットで世界が変わる」 それはみんなが知っていた。しかしグーグルもアマゾンもフェイスブックもまだ姿を現していないこの時代、「誰が、どうやって変えるのか」は誰にも分からなかった。 時代が混沌とする中、ジフ・デービスが主催する米国最大のコンピューター展示会「コムデックス」は、野望に満ちた海賊たちが最先端のテクノロジーを携えて集まる「砂漠のオアシス」だった。東西南北、あらゆる方角から集まった海賊たちは、ここで情報の渇きをいやした。「西に天才がいるらしい」「東に神童が現れた」 世界を目指した孫は、海賊たちが集う「オアシス」を真っ先に押さえたのだ。 その効果は早くも2年後に現れる。ジフ・デービスの情報網に引っかかった「面白そうな会社」。それが米国のYahoo!だ。孫はその可能性をひと目で見抜いた。スタンフォードの学生が立ち上げた創業半年、社員6人のベンチャーに孫は自ら足を運び、「まだ小さな会社だからそんな大金はいらない」という創業者のジェリー・ヤンに「あって困るものではないからとっておけ」と2億円を出資し、Yahoo!の株式の5%を取得した。 孫は同じやり方でアリババを見つけ出し、2000年にこの会社にも出資する。Yahoo!とアリババはその後、大化けし、孫が出資した金は数千倍になって返ってきた。この資金が現在のソフトバンクグループの「動力源」になっていることを考えると、ジフ・デービス展示部門の買収がいかに慧眼だったかが分かる。 ジフ・デービスと並ぶ「孫のコンパス」がアップルの創業者、スティーブ・ジョブズだ。2006年のある日、孫はジョブズに会うため、シリコンバレーにあるアップルの本社を訪れた。 孫はカバンの中から手書きの図面を出した。「あんたのところの『iPod(携帯音楽端末)』にマックOS(アップル製パソコンの基本ソフト)を載せて、通信機能を持たせたら、モバイル・インターネットができるはずだ。スティーブ、これを作ってくれよ」 ジョブズは言った。「マサ、そんな汚らしいものを俺に見せるんじゃないよ」 だがジョブズの目は笑っている。孫はハッとした。「もう作ってるのか?」 ジョブズはニヤニヤしたまま、何も話さない。「作ったんだな。じゃあ、独占販売権を俺にくれ!」 ジョブズは呆れ顔で言った。「お前の会社はまだ携帯電話の免許を持ってないだろ?」 孫は言った。「分かった。携帯のライセンスを取ったら、そいつの販売権をくれ。約束だぞ」 その2週間後、孫は英携帯電話大手ボーダフォンの日本法人を1兆7500億円で買収してしまう。買収を発表した後、孫は再びジョブズに会いにいく。「どうだ、ライセンスを取ったぞ」「分かってる。俺は約束は守る男だ」「試作機を見せてくれ」「それはできない。でもマサ、あれを見たらお前、パンツにお漏らしするぞ」 2008年、ソフトバンクは「iPhone(3G)」の日本における独占販売を開始する。iPhoneの威力は絶大で、NTTドコモ、KDDIとの差はみるみる埋まっていった。 しかし2011年10月5日、孫は大切なコンパスの一つを失ってしまう。ジョブズが死んだ。享年56、膵臓がんだった。孫は沈痛なコメントを残している。「スティーブ・ジョブズは、芸術とテクノロジーを両立させた正に現代の天才だった。数百年後の人々は、彼とレオナルド・ダ・ビンチを並び称する事であろう。彼の偉業は、永遠に輝き続ける」 ジョブズを失った心の空白を埋めるかのように、孫はここから怒涛の進撃を始める。2012年には1兆5700億円で米3位の携帯電話会社、スプリントを買収。米国の携帯電話市場に打って出た。孫は返す刀で米4位のTモバイルの買収に乗り出す。3位と4位を統合すれば、ベライゾン、AT&Tモバイルの二強に肉薄する。 世界の壁を突き破ろうとする孫の前に立ちはだかったのが米国の連邦通信委員会(FCC)だ。大手4社が3社になることにより「米携帯電話市場の寡占化が進み、競争が阻害される恐れがある」。そう考えるFCCはなかなか合併を認可せず、そうこうするうちにスプリントの業績が悪化していき、逆にTモバイルがスプリントの買収に乗り出した。 米国でのドナルド・トランプ大統領への政権交代もあり、2020年4月にはTモバイルによるスプリント買収が認められることになった。スプリントの株主だったソフトバンクは合併した新会社の大株主になったが、経営の主導権はTモバイルにある。結局、孫は新会社の株をTモバイルに売り、米国の通信市場から撤退することを決めた。 日本の通信会社が「世界の壁」に行く手を阻まれたのはこれが初めてではない。2000年代前半にはNTTドコモが海外の通信会社に次々と出資した。日本で大ヒットしたモバイル・インターネット・サービスの先駆け「iモード」の普及を狙ったのだ。しかし2007年にiPhoneが登場すると、iモードはあっという間に陳腐化し、ドコモは海外投資で1兆5000億円の損失を計上した。 楽天は、アミン副社長が中心となり自社開発した携帯電話の感染仮想化技術「楽天・コミュニケーションズ・プラットフォーム(RCP)」輸出で、日本の通信会社として三度、海外に挑むことになる。ただRCPは既存の通信会社や通信機器メーカーの既得権を脅かすことになるため、政府の規制などを絡めた激しい抵抗にあう恐れもある。 一方、5Gへの対応で膨大な設備投資を強いられる各国の通信会社は、政治的に導入が難しくなっている中国・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)に代わる「チャイナ・フリー」の通信インフラを求めており、そこにRCPがぴたりとハマる可能性もある。国家の安全保障とも密接に関わり、「グローバル化が最も難しい」と言われる通信ビジネス。 三木谷の挑戦は「三度目の正直」になるのか、それとも「二度あることは三度ある」になるのか。その成否は日本経済の未来に少なからぬ影響を及ぼす。(第4回に続く)【プロフィール】大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号
2021.08.26 07:00
マネーポストWEB
孫正義氏、全役員の反対を押し切って「Yahoo!BB」を開始した背景
孫正義氏、全役員の反対を押し切って「Yahoo!BB」を開始した背景
【最後の海賊・連載第2回 後編】NTTドコモ、KDDI、そして孫正義率いるソフトバンク。日本の携帯電話市場では「3メガ」と呼ばれる大手3キャリアがそのブランドを確立している。そこに割って入らんとする「楽天モバイル」の新規参入は、“無謀だ”と思われていた。しかし、楽天を率いる三木谷浩史は、タレック・アミンとの出会いをきっかけに大勝負に打って出た。そして孫正義にとっても、ビジネスを発展させていくうえでのキーマンがいた。週刊ポスト短期集中連載「最後の海賊」、ジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。(文中敬称略)【表】1981年日本ソフトバンク設立、1996年合弁でYahoo!ジャパンを設立…、孫正義氏のこれまでの歩み * * * ソフトバンクにとってアミンと同じ「イノベーター(革新者)」の役割を果たしたのは現在ソフトバンク社長の宮川潤一と同社常務の筒井多圭志である。 愛知県犬山市で臨済宗の住職の息子に生まれた宮川は、後継ぎになることを期待されて花園大学仏教学科に進んだ。だが1988年に卒業すると、寺を継ぎたくない一心で犬山市の会計事務所に就職した。ここで会計を学びながらゴミ焼却炉の会社を立ち上げるが、当時、一部のマニアの間で広がり始めたインターネットに着目し、1991年に中部地区をサービスエリアとするインターネット・プロバイダーの「ももたろうインターネット」を立ち上げた。 新しい技術が好きな宮川は当時のインターネットの主流だったダイヤルアップ(固定電話の通信網をそのまま使う接続方式)に代わり、ADSL(非対称デジタル加入者線)という技術を採用した。文字通り通信の「往き」と「復(かえ)り」の速度が非対称で、端末(パソコン)側から見ると、往きが遅くて復りが速い。画像のダウンロードなど受信がダイヤルアップの10倍以上になるので、利用者は「速い!」と感じる。 ただしADSLを使うには通信の基地局と端末を専用の機材につながなくてはならない。利用者側は「モデム」が必要だ。プロバイダーとしては、初期の設備投資がかさむという問題があった。このため、宮川の会社はいつも資金繰りに困っており、2000年に同じADSL方式のプロバイダー、東京めたりっく通信との合弁で「名古屋めたりっく通信」を設立した。 2001年、この会社を買収しに来たのが孫だった。一国一城の主でいたかった宮川は二度ほど申し出を断ったが、最後は孫の殺し文句にやられた。『孫正義300年王国への野望』(杉本貴司著)によると、それはこんな言葉だった。「君は名古屋で終わる気か?」 孫が「天才」と呼ぶ筒井は、子供の頃からコンピューターに魅せられ、高校3年生の時にインテルのICチップを買って自作のパソコンを作った。東大工学部に進んでからも実家からの仕送りの大半をパソコン作りに注ぎ込んだ。その後、京大医学部に転部したが、そこでも大型計算機センターの図書館にこもってコンピューター関連の本や論文を読み耽った。 大学4年の在学中にソフトウェアハウスを立ち上げ、この頃、最先端と言われていたコンピューターのオペレーティング・システム(OS=基本ソフト)「UNIX(ユニックス)」に対応したソフトを開発していた。 同じ時期にUNIXに注目し、この技術に詳しい人間を探していた孫は、コンピューター雑誌に広告を出していた筒井に目をつけた。孫の秘書が筒井の会社にいきなり電話をかけてきて「うちの社長が今度、UNIXの商談でアメリカに行くから、同行してほしい」と依頼してきた。これが筒井と孫の出会いである。 その後、AI(人工知能)に興味を持った筒井は京都大学付属病院医療情報大学院に進み、同院を中退したあとは、帝京大学理工学部情報科学科の講師や、森ビルが経営するアーク都市塾の助教授などをしながら研究に没頭し、10年ほど孫との連絡は途絶えた。 しかし2000年、通信事業への参入を決めた孫は「天才・筒井」をソフトバンクに呼び寄せる。「お前、大学で遊んどるヒマはないぞ」「ブロードバンド」と呼ばれた高速ネット通信の黎明期、孫は筒井という天才軍師を手に入れた。天才はいきなりとんでもない戦略を孫に進言した。「どうせADSLをやるのなら、フルIP(インターネットの通信方式)でいきましょう」 それまでのインターネット通信はATM(非同期転送モード)という電話の延長線上にある技術を使っていた。筒井は「フルIPなら通信速度は20倍以上になる」と主張した。 しかしネット先進国のアメリカでも当時はATMが主流である。フルIPのインターネット通信など、世界の誰もやったことがない。筒井の話を聞いて目の色が変わったのは孫だけで、他の役員は「そんなギャンブルをしたら、会社が潰れてしまう」と尻込みした。やるべきか、やらざるべきか。堂々巡りの議論に孫が切れた。「もういい。俺は筒井と心中する!」 孫は全役員の反対を押し切ってフルIPのADSLサービスを決めた。「Yahoo!BB」のブランドで世界最速(当時)のブロードバンド・サービスを開始した。新参者の孫は宮川、筒井を引き連れて巨艦NTTに挑みかかり、日本の通信市場を沸騰させた。 あれから20年。孫は日本の携帯電話市場で「3メガ(三大携帯電話会社)の一角」という地位を手に入れた。ソフトバンク・グループの携帯電話子会社ソフトバンクは、毎年1兆円近い営業利益を稼ぎ出す、打ち出の小槌だ。 今や巨艦となったソフトバンク。そこに挑む三木谷の楽天モバイルは、かつて孫が「フルIPのADSL」でNTTを翻弄したように、「完全仮想化」という新たな技術で3メガを揺るがそうとしている。 テクノロジーによる下剋上。二人の海賊のぶつかり合いが、日本の通信市場を再び沸騰させようとしている。(第3回に続く)【プロフィール】大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。※週刊ポスト2021年8月20日号
2021.08.16 07:00
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三木谷浩史氏が「ファーストペンギン」たる所以 モバイル参入、勝利への道筋
三木谷浩史氏が「ファーストペンギン」たる所以 モバイル参入、勝利への道筋
【最後の海賊・連載第2回 前編】NTTドコモ、KDDI、そして孫正義率いるソフトバンク。日本の携帯電話市場では「3メガ」と呼ばれる大手3キャリアがそのブランドを確立している。そこに割って入らんとする「楽天モバイル」の新規参入は、“無謀だ”と思われていた。しかし、楽天を率いる三木谷浩史には自信があった。大勝負に打って出るきっかけとなったのは、「ある男」との出会いだった。週刊ポスト短期集中連載「最後の海賊」、ジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。(文中敬称略)【表】1995年興銀退社後に起業、1997年楽天市場の開設…、三木谷浩史氏のこれまでの歩み * * * 2018年2月、楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史はスペインのバルセロナにいた。 2年前の2016年、スーパースター、リオネル・メッシを擁する世界有数のサッカーチーム、FCバルセロナ(バルサ)のメイン・スポンサーになってから、三木谷はこの街をよく訪れるようになったが、この日のお目当てはサッカーではなかった。「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」。毎年この時期にバルセロナで開催される世界最大の携帯電話見本市で、各国の主要な携帯電話事業者、機器メーカーが集結する。楽天がMNO(自前の回線を持つ移動体通信事業者)として総務省から周波数帯域を割り当てられることが正式に決まるのは2ヶ月後の4月だが、三木谷は携帯分野の知見と人脈を広げるためバルセロナに乗り込んだ。 携帯電話会社なら米ベライゾンやスペインのテレフォニカ、通信機器メーカーならフィンランドのノキアや中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)、通信向け半導体メーカーなら米クアルコムやエヌビディア。広大な会場には世界中の携帯電話関連企業が、巨大なブースを構え、競って最先端の技術を展示している。 三木谷は各社のブースを訪れ、首脳陣から直接、話を聞いた。楽天がアポを申し入れると、ほとんどの会社の首脳陣が時間をくれた。「ああ、バルサのスポンサーのRakutenか」 通信業界で無名の楽天が各社首脳のアポを取る時に、バルサのスポンサーとして名前が知られていることは大いに役に立った。 今回の視察で三木谷が「どうしても会いたい」とリクエストしていた会社があった。インドの新興通信会社、リライアンス・ジオだ。インド屈指の財閥リライアンス・インダストリーズがジオを設立して携帯電話事業に参入したのは2016年。まっさらの状態からインフラ整備を始めた最後発であるにもかかわらず、わずか4年で加入者数4億人を超える世界3位にまで駆け上がった。その圧倒的なスピード感に三木谷は魅力を感じていた。 ジオのアポイントを取り付けたのは米通信機器大手、シスコ・システムズの日本法人社長から楽天に移った平井康文だ。面談にこぎつけ、MWCのシスコのブースで、バルセロナに来ていたCTO(最高技術責任者)らジオの幹部4、5人と面談した。 楽天側の関心は最後発のジオがどうやって設備投資額を抑制したかにあった。この時点で楽天が構築しようとしていたのはNTTドコモなどと同じ、在来の携帯通信インフラである。仕組みが同じなら、ファーウェイなど新興メーカーの機器を使って個別の機器の値段を安くしていくしかない。 ジオの幹部は三木谷らの質問に丁寧に答えてくれたが、その中に面白いことを言う男がいた。「固定通信と同じように、モバイルもやがては仮想化していき、設備投資は劇的に安くなるはずだ」 目を輝かせて話す男は、名をタレック・アミンといった。MWCの視察を終えて帰国した後、三木谷が言った。「彼の話が一番面白かったな」 スタッフが経歴を調べると、只者ではないことが分かった。 父はヨルダン人、母はロシア人。ヨルダンの首都アンマンで生まれたアミンは幼い頃からコンピューターにのめり込み、12歳の時には学校でコンピューター工学を教えていた。高校を卒業すると米国に留学。ポートランド州立大学で物理学と電子工学の学位を取得した。 在学中に半導体大手のインテルから入社の誘いを受けたが、1996年に大学を卒業してエンジニアとして就職したのは米国3位の携帯電話会社のスプリント・ネクステル。6年後に孫正義のソフトバンクが1兆5700億円で買収する会社である。数年ずれていれば、孫の部下になっていたかもしれない。 スプリントを皮切りに米国2位の携帯電話会社AT&Tモバイル、4位のTモバイルと大手を渡り歩いた。そして2008年にはファーウェイ米国法人のカスタマー・ソリューション担当上級副社長に就任する。米中の通信業界を知り尽くしたアミンに目をつけたのが、通信事業への進出を目論むインドのリライアンスだった。「ウチに来れば、君はいつの日か、自分の息子に『パパは13億人のインド人の生活を変えたんだよ』と自慢できる」 リライアンス会長のムケシュ・アンバーニはビデオ会議で自らアミンを口説いた。アリババ・グループ創業者のジャック・マーと「アジア一の富豪」の座を競うアンバーニの言葉に心を動かされたアミンは2013年4月、技術部門担当の上級副社長としてリライアンス・ジオに移籍。獅子奮迅の働きを見せ、ジオをインドナンバーワン、世界3位の携帯電話会社に押し上げる原動力になった。 やはりアミンが只者ではないと知った三木谷は言った。「平井さん、もう一度、タレックに会ってきてよ」 平井はすぐにインドに飛び、アミンとランチをともにした。 バルセロナで会った時は上司の前で遠慮していたのかもしれない。今度は平井に向かって、あの時よりはるかに情熱的に仮想化の未来を語った。それは長く通信業界に身を置いてきた平井にとって荒唐無稽に聞こえる内容だったが、話の筋道は通っている。平井は仮想化について熱っぽく語るアミンが、心の内に何らかのストレスを抱えていることを感じ取った。 それはバルセロナで会った時、三木谷や楽天モバイル社長の山田善久も感じたことだった。「ひょっとしたら引き抜けるかも」 だからこそ、わざわざ平井がインドまで会いに行ったのだ。平井はやんわり水を向けた。「ジオで何か不満があるのか」 アミンは正直に答えた。「ジオは素晴らしい会社だ。私の提案でWi-Fiネットワークの仮想化にも成功した。しかし携帯電話ネットワークの仮想化に対しては腰が引けている。アメリカの一人当たりの携帯電話料金は月額55ドル、日本は80ドルだが、インドの人々は1ドルしか払えない。あの国の13億人に携帯電話を行き渡らせるにはネットワークの完全仮想化しかない。それなのに……」「だったら楽天で思い切りやってみないか」 平井に誘われたアミンはもう一度、三木谷に会うため日本を訪れる約束をした。しかしこの時点でアミンに、今の厚遇を手放すつもりはなかった。アンバーニに三顧の礼で迎えられたジオでの処遇は悪くない。 アミンが唱える仮想化には及び腰だが、世界の通信大手の中で技術的に最もアグレッシブな会社であることも疑いはない。何より、楽天という会社については「バルサのスポンサーをしている日本のIT企業」程度しか知らなかった。 東京・二子玉川の楽天本社を訪れたアミンは、三木谷の前で完全仮想化構想の全貌を披露した。それはこんな内容だった。【1】他の携帯電話会社が使っているようなネットワーク専用の高価な機器は使わず、ハードウエアは市販のサーバーを使う。【2】ネットワークのオペレーション(運用)をほぼ自動化し、自律したシステムを構築する。【3】何百万、何千万という携帯端末とやり取りする信号を、巨大なデータセンターを作って一つのクラウドで処理する。 それはかつてインターネットの登場でコンピューターの常識がひっくり返ったのと同じように、通信業界の常識を覆すとてつもなく野心的、かつ冒険的な計画だった。かつてアミンからこの構想を聞いた通信業界の大物たちは口を揃えてこう言った。「面白い話だが、リスクが多すぎる」 三木谷もきっと同じ反応を示すだろう。アミンはそう考えながら話していたが、今日は相手の反応がいつもと違う。アミンの話が進むにつれ、三木谷の目は爛々と輝き出した。通信の専門家ではない三木谷にアミンの構想の全てが理解できたわけではない。だが、三木谷の中に流れる海賊の血が「これはいける」と沸き立っていた。 新しいビジネスを始める時や、全く新しいテクノロジーに出会った時、普通の経営者はリスクの大きさや、失敗した時のダメージを考えて立ち止まる。「できない理由」を探してしまうのだ。 しかし三木谷は違う。「面白い」と思うと、英語で書かれた最新の研究論文を読み、疑問に思ったことはトップレベルの研究者に聞く。短期間に猛烈な勢いで知識を吸収し、成功へのロジックを組み立てる。その道筋が見えた時、三木谷の中から恐れが消える。あとは思い切って飛び込むだけだ。 ベンチャーの世界には「ファーストペンギン」という言葉がある。ペンギンたちが氷の縁から海をのぞいている。海の中には美味しそうな魚がいる。しかし恐ろしいシャチがいるかもしれない。そんな状況で先頭を切って飛び込む。それがファーストペンギンだ。他のペンギンたちはその姿を見てようやく海に入り、おこぼれに与るのだ。ファーストペンギンが現われなかった群れは、氷の上で腹をすかせたまま全滅してしまう。 三木谷はアミンの構想に「勝利への道筋」を見た。その瞬間、新しい技術で携帯ネットワークを構築する冒険への恐れは消し飛んだ。「タレック、それで行こう! 楽天にきて、それをやってくれ!」 この時のことをアミンはこう述懐する。「My idea(私のアイデア)がOur idea(我々のアイデア)になった瞬間だった」 アミンがジオから楽天に移ることを決めたもう一つの理由は、楽天の社内公用語が英語だったことだ。完全仮想化を実現するため、アミンは世界各国から優秀なエンジニアを集めた。53ヶ国から集まった外国籍エンジニアは楽天モバイルの開発部門の9割を占める。 開発を進めるにあたり大きな決定をする時も英語だ。アミンはコミュニケーションという意味において、一切のストレスなく完全仮想化の大プロジェクトを推し進めることができた。(第2回後編に続く)【プロフィール】大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。※週刊ポスト2021年8月20日号
2021.08.12 07:00
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ネットワーク完全仮想化実現の楽天 携帯電話参入での3年越しの勝利
ネットワーク完全仮想化実現の楽天 携帯電話参入での3年越しの勝利
【最後の海賊・連載第1回 後編】世界経済は「モノづくり」から質量を伴わない「データ」に軸足を移した。戦後の成功体験にすがる日本は「失われた30年」を過ごしてきたが、二人の起業家だけがその流れに抗ってきた。IT業界の寵児、楽天の三木谷浩史氏とソフトバンクの孫正義氏である。既存の価値観を破壊する両者はいま、携帯電話事業で火花を散らしている。週刊ポスト短期集中連載「最後の海賊」、日本経済の浮沈を占う頂上決戦の裏側を大西康之氏がレポートする。【表】1981年日本ソフトバンク設立、1997年楽天市場の開設…、孫正義氏と三木谷浩史氏のこれまでの歩み 楽天は2020年春、「第四のMNO(自前の回線を持つ移動体通信事業者)」として携帯電話市場に参入した。楽天モバイルは「ネットワークの完全仮想化」という全く新しい技術を使っている。これまでの携帯電話の信号処理は、専用のハードウェアが必要だった。それを特別な機器を使わず、どこにでもあるサーバーを使って全てソフトウェアでやってしまう世界初の試みだ。これによって、コストを下げ、携帯料金を安くできるのだ。携帯電話参入前夜の楽天の様子を振り返る──。(文中敬称略) * * * 2018年9月のある日、三木谷は東京・二子玉川の楽天グループ本社にある社長室に、三人の幹部を集めた。三木谷の右腕として楽天本体のCFOなどを歴任し、このとき楽天モバイル社長になっていた山田善久、シスコシステムズの日本法人社長から楽天に移籍したCIO(最高情報責任者)の平井康文、そして3ヶ月前に三木谷がインドの通信大手、リライアンス・ジオから移籍させた楽天モバイルのCTO(最高技術責任者)、タレック・アミンだ。三人が揃うと三木谷が切り出した。「Guys.This is the Future!(みんな、これが未来だ!)」 携帯電話参入を決めた2018年、楽天も既存の技術でネットワークを構築しようとしていた。通信機器大手、中国のファーウェイに基地局を発注して設備投資を安上がりにする程度で、技術的に大きなチャレンジをする計画はなかった。「仮想化」のアイデアを持ち込んだのはタレックだ。だが、その日の三木谷の話を聞いて一番驚いたのはタレックだった。 三木谷は楽天モバイルがサービスを始める2020年春から、いきなり「全てのネットワークを完全仮想化にする」と言い出したのだ。そんな度胸はタレックにもなかった。「最初は既存のネットワークを主に、部分的に仮想化を使い、改良を重ねながら徐々に仮想化の部分を増やしていく」 それがタレックの提示したプランである。タレックは助けを求めるように山田や平井の顔を見たが、首をすくめるだけである。(ウチの大将は、一度言い出したら聞かないんだよ)二人の顔はそう語っていた。ちなみに楽天は2011年から社内公用語を英語にしており、すべての会議は英語である。 この日から、3年に及ぶ楽天の壮絶な挑戦が始まった。そして三木谷は賭けに勝った。 完全仮想化のネットワークは500万件近い携帯電話が発する信号を大きな事故もなく処理し続けている。誰もが「無理」と言った完全仮想化に成功したのである。 もちろん、つながりにくいエリアはある。どこかで不測の問題が発生するかもしれない。だがそれは「お金と時間をかければ解決する問題」(三木谷)である。 2021年6月30日、楽天モバイルは世界で最も権威のある携帯見本市「MWC(モバイル・ワールド・コングレス)」がその年に携帯電話の分野で最も革新的な事業を成し遂げた企業に選ぶ「グローバル・モバイル賞」を受賞した。 日本の経済成長を支えてきた大企業はもはや老いた。2020年5月、東京証券取引所一部の株式時価総額が、米国のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)に抜かれた。トヨタ自動車を筆頭に日本を代表する大企業2170社の「価値」が、たった5社の米国ネット企業に及ばない。 7月20日、一人の起業家が宇宙に飛び立った。アマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスである。自らが設立した宇宙ベンチャー、ブルー・オリジンが開発したロケット「ニュー・シェパード」はベゾスと彼の弟のマーク・ベゾス、そして二人の顧客を乗せて数分間、宇宙空間を旅した。夢の宇宙旅行が実現した瞬間だ。 ベゾスのライバルで電気自動車ベンチャー、テスラの創業者、イーロン・マスクの宇宙ベンチャー、スペースXはその2ヶ月前、民間企業として初めて有人宇宙飛行を成功させている。世界は、国家の専売特許だった宇宙開発すらベンチャーが担う時代に突入した。暗号資産の登場で通貨の発行すらベンチャー企業や個人の手に委ねられるかもしれない。国家と大企業が絶対的な価値ではなくなった今、起業こそが希望だ。 トヨタもパナソニックもホンダもソニーも、みんな昔はベンチャーだった。起業家はみな、その時代の既得権を破壊する「海賊」だった。だが高度経済成長とバブル崩壊を経て、いつの間にか我々の前から海賊たちが姿を消し、サラリーマンと官僚が取り仕切る体温の低い国になってしまった。 今、常識に囚われず、世界を相手に自由に戦う海賊はただ二人。三木谷と孫だけである。「最後の海賊」三木谷と孫は、この国をどこへ誘おうとしているのだろうか。(第2回につづく)【プロフィール】大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。※週刊ポスト2021年8月13日号
2021.08.06 07:00
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三木谷浩史氏と孫正義氏 プロ野球参入から17年、再び交わる二人の軌跡
三木谷浩史氏と孫正義氏 プロ野球参入から17年、再び交わる二人の軌跡
【最後の海賊・連載第1回 前編】世界経済は「モノづくり」から質量を伴わない「データ」に軸足を移した。戦後の成功体験にすがる日本は「失われた30年」を過ごしてきたが、二人の起業家だけがその流れに抗ってきた。IT業界の寵児、楽天の三木谷浩史氏とソフトバンクの孫正義氏である。既存の価値観を破壊する両者はいま、携帯電話事業で火花を散らしている。週刊ポスト短期集中連載「最後の海賊」、日本経済の浮沈を占う頂上決戦の裏側を大西康之氏がレポートする。(文中敬称略)【表】1981年日本ソフトバンク設立、1997年楽天市場の開設…、孫正義氏と三木谷浩史氏のこれまでの歩み * * * 2020年の秋、楽天会長兼社長の三木谷浩史は東京・丸の内に本社ビルを持つ大企業のトップを訪ねた。「できるだけ早く、お会いしたい」 秘書を通じて約束を取り付けた三木谷は、半ば強引にその会社に押し掛けた。「お忙しい三木谷さんがわざわざお越しになるなんて、一体どういう風の吹き回しですか」 三木谷の急襲を受けたトップは、怪訝な顔で尋ねた。三木谷は、いきなりガバッと頭を下げた。「アンテナを立てさせてください」「アンテナ?」「御社の中庭に携帯電話のアンテナを立てさせてもらいたいのです」「うちの中庭に?」「はい。賃料はお支払いします。できるだけ早く工事をさせていただきたい」 楽天は2020年春、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに続く「第四のMNO(自前の回線を持つ移動体通信事業者)」として携帯電話市場に参入した。サービス開始に向け、まず4万5000本のアンテナを立てることを目標に掲げた。 ところがアンテナ設置のための用地を探し始めると、電波が届きやすい場所は、ことごとく先行3社に押さえられている。特に携帯の利用者が密集する丸の内は、立錐の余地もないほどびっしり他社のアンテナが張り巡らされていた。 そんな中で現場が見つけた「穴場」が、この中庭だった。「良さそうな場所が見つかった」 一報を受けると三木谷はすぐに動いた。ビルを所有する会社のトップと直談判し、アンテナの設置場所を確保したのである。大手家電量販店、大手コンビニチェーン、日本郵政。三木谷はアンテナが設置できそうな場所を持つ企業のトップの元に、自ら足を運び、こう言って協力を求めた。「我々はただ単にアンテナを立てているのではありません。日本の未来を建てているのです」 超高速で大容量の5G(第五世代携帯電話)サービスを世界のどこよりも安く提供すれば、そのインフラの上でさまざまな新しいサービスが生まれる。ネット産業で米国や中国に大きく出遅れた日本が一発逆転するには、それしかない。三木谷はそう確信している。 15年前のある日、孫正義は真夜中の自宅で受話器を握りしめていた。電話の向こうにいたのはNTT局舎の守衛だ。 この頃、参入したてのソフトバンクの携帯電話は「つながりにくい」ことで有名だった。通信設備の不具合で一部の地域が通話不能になることも珍しくない。この日はNTTの局舎に間借りしている設備が不具合を起こした。ソフトバンクの社員が駆けつけたが、門の前で押し問答になった。ソフトバンクの社員は「緊急事態なので、中の設備を修理させてくれ」と懇願するが、守衛は「NTTの許可がなければ入れられない」の一点張り。こんな時間にNTTと連絡が取れるはずもない。「どうしても入れてもらえません」 困り果てた社員が孫の自宅に電話をすると、孫は「守衛と代われ」と命じた。社員が守衛に受話器を渡すと、孫は大声で捲し立てた。「そこにいるのはウチの社員だ。怪しい者じゃない。頼むから局舎の中に入れてやってくれ。一刻を争うんだ。責任は俺が取る」「責任を取るって、あんた誰?」「俺は孫正義だあ!」 三木谷浩史と孫正義。IT産業を代表する二人の起業家の軌跡はこの四半世紀、交わっては離れ、また交わる、を繰り返してきた。 2004年、彼らは揃って日本のプロ野球界に足を踏み入れた。三木谷は東北初の新球団を設立し、孫正義のソフトバンクはダイエーホークスを買収。ベンチャースピリットに溢れた彼らは、球団経営でも凄まじい勢いで改革を進め、不人気だったパ・リーグを大いに盛り立てた。だが彼らの参入を皆が歓迎したわけではない。 二人がプロ野球に参入するきっかけとなった「ライブドアによる近鉄バファローズ買収」が表面化したとき、写真週刊誌に追い回された読売巨人軍のオーナー(当時)、渡邉恒雄はこう言い放った。「ベンチャーだか便所だか知らんが、俺は不機嫌なんだよ!」 当時のベンチャー企業に対する見方を象徴する一言だろう。エリート層から見れば、自分たちが作り上げた秩序を乱す「海賊」に他ならず、既得権を脅かす敵である。 1996年、孫はメディア王、ルパート・マードックと組んで「テレビ朝日買収」を仕掛けた。2005年、今度は三木谷が東京放送(TBS)の株式を買い占めた。だが、二人の「テレビ買収」は「海賊どもに権益を渡してなるものか」という財界のぶ厚い壁に跳ね返された。 プロ野球参入から2017年。三木谷と孫は、ベンチャーが便所ではないことを証明した。今シーズン、東北楽天ゴールデンイーグルスには大エースの田中将大が帰ってきた。四連覇中のソフトバンクホークスは、文句なしの常勝軍団である。 ソフトバンクグループの株式時価総額は12兆5100億円でトヨタ自動車、ソニーグループ、キーエンスに次ぐ日本4位。携帯電話子会社のソフトバンク、ネット子会社のZホールディングスを加えれば24兆円で首位のトヨタ(31兆7300億円)に迫る。 そして今、二人の軌跡が再び交わろうとしている。楽天モバイルによる携帯電話参入だ。 2020年、楽天は自前回線を持つ「四番目の会社」として携帯電話事業に参入した。ソフトバンクが携帯電話に参入したのは15年前。孫はこの分野では既得権益を持つ側であり、そこに破壊者として三木谷が乗り込んだ。「データ使い放題で月額2980円」 楽天の料金プランは破格だった。メガ・キャリアと呼ばれる先発3社の「データ使い放題」の料金プランは概ね月額1万円だったから、3分の1の値段で突撃したことになる。まさに価格破壊だが、「安い分だけ通信の品質が低いのではないか」とも言われた。 サービスを始めたときは電波のカバーエリアが東京、名古屋、大阪などに限られた。しかし楽天モバイルは猛烈な勢いで全国にアンテナを立て続けており、今夏には人口ベースのカバー率が96%に達する。余程の山奥や離島に行かない限り、電波は届くようになる。 カバー率の上昇に合わせて利用者も増えており、契約数は7月末時点で500万件に迫る。 総務省によると2021年3月末時点の日本の携帯電話契約数は約1億9000万件。ドコモが約7000万件、KDDIが約5000万件、ソフトバンクが約4000万件だから楽天モバイルが500万件に達しても、3強1弱の構図には変わりない。それでも三木谷が仕掛けた価格破壊は3メガを動かした。 ドコモは「ahamo(アハモ)」、KDDIは「povo(ポボ)」、ソフトバンクは「SoftBank on LINE」のプラン名で「データ利用量20ギガバイトまで月額2980円」のサービスを打ち出した。 20ギガバイトの制限があるので、楽天モバイルには敵わない。3メガのデータ利用無制限プランは今でも月額6580円だ。さらに4月、三木谷は無制限は2980円としたまま月間のデータ使用量が1ギガ以下の場合は無料、1~3ギガ以下は980円、3~20ギガは1980円とする新プランを打ち出し、3メガを突き放した。 なぜここまで安くできるのか。「F1カーとGTカーの違いかな」 三木谷はこう説明する。楽天モバイルは「ネットワークの完全仮想化」という全く新しい技術を使っている。これまでの携帯電話の信号処理は、専用のハードウェア(機器)が必要だった。それを特別な機器を使わず、どこにでもあるサーバーを使って全てソフトウェアでやってしまう世界初の試みだ。従来の携帯電話ネットワークとはコスト構造が全く違う。 自動車レースの最高峰F1のマシンは、時速300km超で走るためエンジンのパーツなどを一つ一つ専用に設計する。量産効果はゼロだから1台のマシンを作るのに1000億円以上の金がかかる。これに対して カーは数百万円の市販車を改造するだけなので数億円もあれば作れてしまう。楽天モバイルの完全仮想化ネットワークは「F1並みのスピードで走るGTカー」というわけだ。 3メガは現行の4G(第四世代携帯電話)や、今後主流になる5Gのために「F1」のネットワークを構築している。設備投資は巨額で、2019年度はドコモが5728億円、KDDIが3534億円、ソフトバンクが3050億円を投じた。これに対し「GT」の楽天モバイルの投資は1871億円だ。 2022年度以降も3メガは同じペースで投資する計画だが、楽天は1000億円規模に減速する。つまり楽天は毎年、ドコモの5分の1、KDDI、ソフトバンクの3分の1という極めて少ない設備投資で済ます計画になっており、これが破壊的な価格設定を可能にした。 携帯電話ネットワークの「完全仮想化」。通信の専門家たちは「理論的には可能だが実現はまだまだ先だろう」と予測してきた。固定通信のネットワークでは、すでに仮想化が実現している。 ただ、通信回線に固定されているパソコンや固定電話と違い、好き勝手に移動する何千万台という携帯端末のデータを処理する携帯電話ネットワークの仮想化はべらぼうに複雑だ。だから「いつかはできる」と言いながら、誰も手を出さなかった。三木谷は未知の領域に頭から飛び込んだのである。(第1回後編に続く)【プロフィール】大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。※週刊ポスト2021年8月13日号
2021.07.31 07:00
マネーポストWEB
「週刊ポスト」本日発売! ワクチン接種後の死亡事例ほか
「週刊ポスト」本日発売! ワクチン接種後の死亡事例ほか
 7月28日発売の「週刊ポスト」は、夏の合併特大号。光と影の東京五輪が良くも悪くも注目と関心を集めているが、庶民の生活にとって五輪はほんの一側面でしかない。コロナ禍で2度目の夏を健康に楽しく乗り切る知恵と“ネタ”を総力取材でお届けします。グラビアはオールカラーでお宝カット満載!今週の見どころ読みどころ◆明石家さんまが告白「やっぱりワクチン打つことにした」5月に自身のラジオ番組で「ワクチンは打たないつもり」と発言して物議をかもしていた明石家さんまが、本誌の直撃に考えを一転、「8月末に打つことに決めてる」と告白した。「さんまが打たないなら自分も打たない」というファンが少なからずいたこともあり、影響力の大きさも考慮したようだ。本誌では一問一答を詳報する。◆東京五輪のために支払う国民1人あたりの負担額は一体いくら?IOCのバッハ会長は、「オリンピックが始まれば日本国民の気持ちは変わる」とうそぶいた。五輪反対を公言していた立憲民主党の蓮舫氏がスケートボードの金メダルに興奮してツイートしたことに対しては、ダブルスタンダードだという批判も起きた。日の丸を背負ったアスリートの活躍が国民にとってうれしいのは当然だが、だからといって「五輪支持」という証拠にはならない。本誌の徹底調査により、今回の「テレビ観戦五輪」のために、全国民が1人あたり1万円以上、都民にいたっては10万円以上を負担していることが判明した。一体なににそんな巨額の税金がつぎ込まれたのか? 詳細は本誌で。◆<スクープ>侍エース・山本由伸がホテル密会した相手は、菅野の元カノだった7月28日に初戦を迎える五輪野球代表の侍ジャパン。そのエースとして開幕投手を務めるのがオリックスの山本由伸だ。その山本は、前半戦最後の登板の夜、都内の高級ホテルで美女と濃密な時間を過ごしていた。そのお相手はなんと、かつて本誌が侍ジャパンの元エースである巨人・菅野智之との交際をスクープした美女モデルだった――。◆五輪選手村スタッフは見た! アメリカ&イタリア選手団の「大宴会」専門家の懸念のとおり、選手村ではコロナ感染者が続出し、クラスター発生のリスクと隣り合わせで大会は進んでいる。選手村スタッフの証言からは、政府や組織委員会が約束した「バブル」が全く機能していない実態が明らかになった。アメリカやイタリアの選手団は、マスクもせずに食堂で10人以上の大宴会を開いていたというのである。このルール違反に組織委はなんと答えたか。◆コロナワクチン「2回目後に死亡した77人」が飲んでいた薬ワクチンを2回接種した国民は約3000万人に達したが、接種後に死亡したと報告されたケースも700件を超えている。そのうち、副反応が強いとされる2回目の接種後に死亡したのは214人。ワクチン接種との関連はわかっていないものの、死者には気になる共通点も見つかっている。普段飲んでいる薬とワクチンには「危険な禁忌」があるのだろうか。◆不正続出のジェネリック医薬品 医者は飲んでいなかった!?政府の推進キャンペーンにより、いまやジェネリック医薬品の使用率は78%に達している。しかし、市場が拡大して競争が激化していることから、製造や検査工程での不正が相次いで発覚し、その信頼性に疑問が投げかけられている。また、主成分が同じだといっても、必ずしも「同じ効き目」であるかは保証されていない。実は医師らが加入する健康保険組合のデータでは、ジェネリック使用率は6割程度なのである。患者に強く勧めるジェネリックを、医師自身は避けていることがわかった。◆<カラーグラビア>オリンピック開会式の光と影見逃した人でも臨場感を体感できる開会式の誌上再現。ONの聖火ランナー、海老蔵の「暫」、好評だったピクトグラムのパントマイムやドローンの地球、そしてブルーインパルスの妙技などを紹介する。一方、その時間、会場の外では何が起きていたか。都民の冷めた日常や「密」な街の様子をカメラは捉えていた。◆<カラーグラビア>五輪を彩る世界の美女アスリート図鑑各国の女性アスリートたちの肉体美と、待ちに待った晴れ舞台に満面の笑みを浮かべるベストショットを集めた。日本からは、アーティスティックスイミングの安永真白、新体操の大岩千未来がエントリー。◆<グラビア>阿久悠と筒美京平「いま歌いたい、あの詩、あの曲」まだまだカラオケを自由に楽しめる状況にはないが、それなら自宅で名曲を思う存分歌ってみてはいかが? 日本を代表するポップスの巨匠ふたりが手掛けた国民的ヒット曲を一挙紹介。もちろん、当時のなつかしいシーンも掲載します。「ロマンス」「シンデレラ・ハネムーン」などで両氏とコラボした岩崎宏美はじめ、太田裕美、山本リンダ、ジュディ・オング、増田恵子(ピンク・レディー)、松本伊代、石川さゆり、笠浩二(C・C・B)、八代亜紀が、昭和のメガヒットの思い出を語る。◆あの人が遺した「最期の言葉」昭和の巨星たちが人生の最後に家族に遺した言葉を紹介する。プロ野球の大島康徳氏、中曽根康弘・元首相、大鵬、水木しげる、若山富三郎の最期が再現される。「思い出せばいつでも会えるし、いつまでも一緒なんだよ」◆あのメダリスト、いま何してる?オリンピックを沸かせた国民的スターたちの「いま」を追跡。檜舞台のドラマに負けず劣らず、その人生は波瀾万丈、千差万別だった。レスリングの吉田義勝、上武洋次郎、金子正明、柳田英明、太田章、柔道の中谷雄英、女子バレー「東洋の魔女」の松村勝美、水泳の田口信教、青木まゆみ、田島寧子、体操の笠松茂の各氏が登場する。◆<巨弾連載>最後の海賊 三木谷浩史と孫正義の頂上決戦ジャーナリスト・大西康之氏によるビジネス・ノンフィクションが今号からスタート。日本のベンチャーの両雄、ソフトバンクの孫正義氏と楽天の三木谷浩史氏の破天荒でドラマティックな半生、そして激突を綿密な取材で明らかにする。※全国の書店、コンビニで絶賛発売中!
2021.07.28 07:00
NEWSポストセブン
日本人トップの役員報酬となった吉田憲一郎・ソニーグループ社長(時事通信フォト)
12億円超の役員報酬もらうソニー社長 トップとそれ以外で格差が広がったワケ
 6月末までに3月決算の上場企業の有価証券報告書が提出された。2010年3月期決算から、報酬1億円以上の役員の個別情報開示が義務付けられて以降、年々1億円プレーヤーが増え続けている。上位10人(東京商工リサーチ調べ)を順に挙げると、以下のようになっている。(1)サイモン・シガーズ(ソフトバンクグループ=SBG取締役)/18億8200万円(2)クリストフ・ウェバー(武田薬品工業社長)/18億7400万円(3)マルセロ・クラウレ(SBG副社長)/17億9500万円(4)ディディエ・ルロワ(トヨタ自動車副社長)/14億5100万円(5)吉田憲一郎(ソニーグループ社長)/12億5300万円(6)ラジーブ・ミスラ(SBG副社長)/9億2100万円(7)ロナルド・フィッシャー(SBG取締役)/9億1700万円(8)アンドリュー・プランプ(武田薬品工業取締役)/9億1100万円(9)河合利樹(東京エレクトロン社長)/9億200万円(10)金川千尋(信越化学工業会長)/7億3100万円トップ10に4人も入るソフトバンク SBGから4人が入っているが、4兆9879億円という、日本企業として史上最高の最終利益に連動したからというわけではない。約1兆円の最終赤字を出した昨年でさえ、3人がランクインしている。 これは優秀な経営者には糸目をつけないという孫正義社長の方針に基づくもの。当の孫氏はちょうど1億円で、これは社外役員を除く全取締役8人の中で最も少ないが、毎年SBGの配当だけで200億円近くを受け取っているため、役員報酬にそれほどの意味はなく、報酬と配当の合計では、毎年トップに立ち続けている。ソニーの社長報酬が高額になった経緯 この上位10人のうち、昨年もトップ10に入っていたのは6人。その中で唯一の日本人が、吉田・ソニーG社長だ。昨年は10億1500万円で10位、そして今年は2億円以上増えて、日本人最上位の5位となった。 吉田氏が社長に就任したのは2018年。就任初年度で過去最高の純利益を出し、前3月期は2期ぶりに最高益を更新、純利益1兆円企業の仲間入りをした。それに伴い、業績連動報酬が増えたことで吉田氏のランクも大きく上がった。 ソニーGは社長報酬が高くなったのは2005年にハワード・ストリンガー氏がCEOに就任してからだ。 それまでのソニー(当時の社名)は、子会社のソニー・ピクチャーズ(米)のトップなどに対して高い報酬を払いながら、日本国内にいる本社役員の報酬はそれほど高くなかった。ところが、本体に外国人トップが誕生したことで一気に変わった。ストリンガー氏にしてみれば、世界企業ソニーのトップなら、欧米のグローバル企業のトップと同様の報酬を得ることがむしろ当然だった。 1億円以上の役員報酬の開示が義務付けられて以降のストリンガー氏の報酬を見ると、2009年度8億1700万円、2010年度8億6300万円、2011年度4億4900万円となる。さらに2008年度には4億1000万円を受け取っており、計25億3900万円。 問題はこの4年間のソニーの業績で、毎年、巨額の赤字を出し続けたことだ。最終赤字の合計は8559億円となる。これだけの赤字を出しながら高額報酬を受け取り続けるストリンガー氏には社内外から批判された。 結局ストリンガー氏は2012年に解任されるが、役員報酬の仕組みは存続した。それが現社長の吉田氏の日本人最高報酬にもつながっている。トヨタの報酬体系とは異なるソニーの特異性 もう一つ、ソニーGの役員報酬の特徴は、社長とそれ以外の格差の大きさだ。ソニーGの役員で2番目に報酬を得ているのは十時裕樹副社長だが、金額は3億1300万円。吉田氏の約4分の1だ。3位は勝本徹副社長で2億3600万円と5分の1になる。 河合社長がランキング9位に入った東京エレクトロンと比べると、ソニーGの特異性がよりはっきりする。 東京エレクトロンの場合、河合社長に9億200万円に次ぐ佐々木貞夫取締役で4億7800万円。さらに3億4800万円から3億8400万円の間に6人の役員が入っている。会社が得た利益を大勢の役員で分け合う、ある意味日本的な分配方法だ。 名実ともに日本のトップ企業であるトヨタ自動車も、外国人役員を除けば格差は小さい。最上位は豊田章男社長で、報酬額は4億4200万円。次いで内山田竹史会長の2億2200万円、社長のほぼ半分だ。そして1億3000万円~1億4000万円の間に3人の役員が入る。 ただし豊田章男氏は、株式配当で14億5000万円を受け取っているため、一概には比較できないが、すくなくとも役員報酬にかぎれば、極力、差をつけない方針であることがわかる。ソニー発の役員報酬格差が広がる可能性も「ソニーモルモット論」とは評論家の大宅壮一が「ソニーはモルモット。新しい製品を送り出すが、すぐに東芝などの大手にシェアを奪われる」という意味で使ったものだ。しかしソニーは、むしろモルモットであることを誇りとし、新しい製品を世の中に送り出し続けた。 これは製品だけでなく経営システムにも当てはまる。ソニーが日本で初めてカンパニー制や執行役員制を取り入れたのは1990年代のことだ。当初は奇異な目で見られたが、やがて多くの企業に広がっていった。取締役会の中に報酬委員会や指名委員会を設置したものソニーGが初めてで、今では委員会設置会社は会社法にも盛り込まれている。 このように、ソニーGが始めたことがいつの間にかスタンダードとなることはこれまでにも何度もあった。その意味で、経営トップの責任を明確化し、トップとそれ以外で役員報酬に大きく差をつけるというやり方も、今後のソニーGの業績が良ければよいほど、広まっていく可能性はある。●文/関慎夫(雑誌『経済界』編集局長)
2021.07.12 07:00
NEWSポストセブン
中国の配車アプリ・滴滴出行が米上場へ 超大型IPOを取り巻く利害関係者たち
中国の配車アプリ・滴滴出行が米上場へ 超大型IPOを取り巻く利害関係者たち
 中国本土最大の配車アプリ企業である滴滴出行(DiDi)は6月10日、アメリカ証券取引委員会に上場申請(ティッカーはDIDIを予定)を行った。 上場のための業務を主導するのは欧米系投資銀行である。引受幹事団はゴールドマンサックスを筆頭に、モルガンスタンレー、JPモルガンなどが名を連ねている。中国系では、中国企業の引受業務を主要業務とする華興資本(香港上場、01911)が加わっている。 現段階ではIPOの規模がどの程度になるのかはわからない。しかし、現在の時価総額は、類似会社であるUberとの比較から600億ドル(6兆5400億円、1ドル=109円で計算、以下同様)~1000億ドル(10兆9000億円)程度と推測される。ちなみに、Uberの現在の時価総額は1000億ドル(10兆9000億円)弱である。こうしたデータから発行規模を類推すると、今年最大クラスの大型案件となる可能性もありそうだ。 上場申請資料によれば、2020年12月期の売上高は1417億元(2兆4089億円)。前年同期と比べ8%減少した。利益面では106億元(1802億円、1元=17円で計算、以下同様)の赤字。前年同期も赤字で赤字幅は9億元(153億円)ほど拡大した。 滴滴出行は中国を始め、15か国、4000以上の都市で事業を展開。インターネットを使った配車、タクシー、乗り合いタクシー、自転車(電動自転車)シェア、運転代行、送迎サービス、貨物輸送から金融、自動運転まで、幅広く業務を展開している。収益は多様化しているようにもみえるが、実態は売上高の94%は中国本土での売上であり、また、その大半を配車を含めた広い意味でのタクシー関連業務が占めている。 コロナ禍で人流が大きく制限される中でタクシー需要が減少、2020年12月期は厳しい決算となった。とはいえ、2021年3月末までの1年間におけるアクティブユーザーは4億9300万人(内、中国が3億7700万人)、アクティブドライバーは1500万人(内、中国が1300万人)に及び、世界最大規模である。滴滴出行は巨大市場中国でトップシェアを持つといった大きな強みを持っている。 自動車業界全体をみると今後、EV化が進むとともに自動運転技術が急速に発展するだろう。配車サービスの提供などを通じて獲得した厚い顧客基盤は需要の構造的な変化に対して高い対応能力を持つはずだ。今後の発展が期待される。◆幹事団を組成する欧米系投資銀行の狙い バイデン政権は6月3日、軍部との関係の深い企業、人権侵害に繋がる監視技術を開発している中国企業など59社に対して、株式購入などを通じての投資を禁じる大統領令に署名した。これは、トランプ前政権が昨年11月に発令した投資禁止措置をさらに拡大させる内容だ。 また、トランプ前政権は2020年12月、外国上場企業に対する規制を厳しくする法案「外国企業説明責任法」を成立させた。これにより、監査法人が公開企業会計監査委員会の検査を3年連続で受け入れなかった場合、その監査対象企業は上場禁止となるのだが、現状では、海外の機関が中国国内の監査法人から監査資料を得たり、現地での調査をしたりするのを中国政府は許していない。法案成立を受けてアメリカ証券取引委員会は3月24日、実際に新規制の導入を開始したと発表している。 多くの民営海外上場企業について、事業の実体は中国本土にあるのだが、租税回避地を本社登記地としている。こうした“細工”はすべて欧米系投資銀行の“入れ知恵”であろう。欧米系投資銀行は、バイデン政権が中国企業排除政策を強化しようとも、それを上手く躱すことができると読んでいるからこそ、幹事団を組成し同社のIPO申請を行ったのではないか。こうした大手投資銀行の動きをみる限り、バイデン政権の対中強硬策は決してアメリカ産業界の総意ではないということが分かる。 一方、中国政府について、滴滴出行に対する政策スタンスは不透明なところもある。滴滴出行が行なう事業はイノベーションによって世の中を大きく変えていくものであり、そういう点では中国政府は積極的に支持したいと考えている。 しかし、業界全体は悪性の過当競争に陥りつつある。同社は大量の優待券をばらまき、大幅な赤字を容認する形で顧客の囲い込みを進めたことで、独占禁止法に触れかねない規模まで事業は拡大している。規模の拡大によって管理の届かない部分(サービスの低下、犯罪など)が出てきてしまい、それが問題になったりしている。(当局から圧力を受けたと言われる)アリババのジャック・マーの件があるだけに、共産党とうまく折り合っていくことができるかどうかが、発展のカギとなりそうだ。◆ソフトバンクグループは発行済み株式の21.5%を所有 それにしても、中国企業のイノベーションには目をみはるものがある。 1983年生まれと若い程維会長が同社を創業しようと思い立ったのは2012年の冬である。北京の凍てつく夜、タクシーが来るのを長時間待ち続けたときに、長い待ち行列ができているのを見て、配車サービスの事業化を思い立ったそうだ。 それからわずか9年で市場価値が10兆円と評価される企業を作り上げている。創業者である程維会長、柳青総裁の事業にかける情熱は素晴らしい。しかし、このビジネスの将来性を見抜き、創業当時から巨額の資金を投じてきたVC(ベンチャーキャピタル)、エンジェル投資家たちの先見性があってこそとも言える。 筆頭株主はソフトバンクグループ(Vision Fund)で発行済み株式総数の21.5%を所有。そのほか、Uberが12.8%、テンセントが6.8%の株式を所有している。 2017年、孫正義会長は同社へのファイナンスを申し出た。しかし、100億ドルのファイナンスを行った直後であったことから資金は充分足りており、程維会長は一旦、断ろうとしたそうだ。その時、孫正義会長は、「あなたが我々の資金をいらないというなら、この資金はあなたの競合相手に提供する」と言ったそうだ。ソフトバンクグループの発展もまだまだ続きそうに思える。文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。
2021.06.16 16:00
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「どうして私だけ…」緊急事態宣言で増幅される「不公平感」の正体
 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第18回は、3度目の緊急事態宣言が加速させる格差拡大や人々の不満心理について解説する。 * * * 今年1月に続いて3度目となる「緊急事態宣言」が東京都、大阪府、京都府、兵庫県の4都府県に発令されている。期間は4月25日~5月11日までの17日間で、各種サービス業にとってかき入れ時となるゴールデンウイークが丸々含まれることから「景気悪化」を指摘する声が高まっている。 確かに、飲食店は酒やカラオケを提供しないで時短営業するか、休業するかを迫られ、百貨店やショッピングセンターなどの大型商業施設も一部を除いて休業、スポーツなど大型イベントは原則無観客とすることが要請された。人の流れが抑制されることから、観光業なども大打撃を受けるのは間違いない。 ただ、日本経済全体で見ると、必ずしも「悪化」ばかりではないだろう。米国では新型コロナのワクチン接種が進み、バイデン政権による1.9兆ドル規模の経済対策などが景気回復を後押しして、2021年は6.5%の経済成長が見込まれている。また、米中対立により、特に安全保障にかかわる産業では米国内での生産を増やす見通しもあり、それに伴って日本の工作機械などをはじめとした輸出の伸びも期待されている。 そう考えていくと日本経済は、コロナ禍で全体が悪化するのではなく、米国景気の回復に伴って輸出などが上向く一方で、人の流れを制限される国内サービス業が大きく落ち込む「K字回復」となる公算が高い。当然ながら、飲食業をはじめ、百貨店やショッピングセンター、旅行、イベント関連などは惨憺たる状況となるのは必至の情勢であり、「K字」の角度は、上方向はさらに上向きに、下方向はさらに下に向かうとみられる。これにより明暗がよりはっきりして、さらなる格差が拡大するのは間違いないだろう。 そこで気になるのが、GDP(国内総生産)という目に見える数字よりも、目には見えない人々の気持ちである。社会心理学の世界では、幸福感には「絶対的」なものと「相対的」なものがあり、例えば「10万円を稼げている」ことで絶対的幸福感を得られていても、隣の人が「12万円稼いでいる」ことが分かると、「それに比べて自分は稼げていない」と感じ、相対的な幸福感は失われる。本来、食べるに困らない分は稼げていて失望する必要はないはずなのに、どうしても人と比べて不幸を感じ、「どうして私だけ……」と不平や不満が募っていくのだ。◆孫正義氏は国内長者番付で1位に 人々の相対的幸福感を支えるためには、政府の役割も大きい。例えば今回の緊急事態宣言のケースで言えば、居酒屋などの飲食店はある程度の休業補償が受けられるが、酒の卸売業者などは補償されない。同じようなダメージを受けるはずなのに、政策の恩恵を受けられる人と受けられない人がいれば、社会の不公平感、不満は蓄積して当然だ。その結果、社会は不安定化しやすくなってしまう。 皮肉なことに、格差拡大を助長してきたのも「政策」と言えるだろう。各国の金融当局は、コロナ対策として大規模な金融緩和を推し進めてきたが、その恩恵を受けたのは本当に困っている人々ではなく、株式市場をはじめとする金融市場の参加者だった。実際、資産を持つ者と持たざる者の格差は広がる一方だ。“持てる者”の象徴的な存在がソフトバンクグループだろう。通信会社ソフトバンクを傘下に抱えてはいるものの、同社の主な事業は国内外への投資である。世界的な株高を背景に、投資先の新興企業の上場などで利益が押し上げられ、同社は2021年3月期決算で4兆円を超える過去最高益を見込んでいると言われる。あのトヨタ自動車ですら、過去最高益は2018年3月期の約2.5兆円であるから、ソフトバンクグループは国内でもダントツの利益を上げる企業となる見通しだ。同社は、投資先の不振によって前年度(2020年3月期)は過去最悪の1兆円近い巨額の赤字を計上したが、それから一転、株価に大きく左右される同社の業績はまるで“時代のあだ花”のようにも映る。 加えて、『フォーブス』の2021年版長者番付によると、同社を率いる孫正義・会長兼社長が保有する資産は昨年の2倍を超える4兆8920億円にものぼり、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正・会長兼社長を抜いて国内1位となっている。これもまた、当局の金融緩和を原動力とした株高の恩恵と言えるだろう。 そんな“株長者”をしり目に、サービス業などで働く人たちはますます困窮を極めている。行き場を失った在庫に苦しむ酒の卸売業者はもちろん、飲食店でパートで働くシングルマザーなどの貧困が加速するのは想像に難くない。イベント関連でも、歌舞伎など伝統芸能に携わる人の中には、相次ぐ舞台の休演でやむを得ずウーバーイーツでアルバイトしているという話まで耳にする。 なかなか終わりの見えないコロナ禍で、株式投資をする余裕もなく、どうにか堪えてきた人たちがふと周りを見れば、「なんでああいう人たちだけが儲かっているんだ」と相対的に幸福感を失い、不平不満を募らせていくのは時間の問題だろう。そんな人々の気持ちが鬱積していけば、社会はより不安定になりかねない。そうならないためにも、菅政権にはもっときめ細かな政策の立案と迅速な実行が問われている。【プロフィール】真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。
2021.04.30 16:00
マネーポストWEB
一流の人たちは食事に時間をかけない 孫正義氏、宮崎駿氏、ビル・ゲイツ氏ら
一流の人たちは食事に時間をかけない 孫正義氏、宮崎駿氏、ビル・ゲイツ氏ら
 技術革新によって、様々な分野での“時短”が実現している。さらに、リモートワークの普及により、人の移動時間もカットされる時代に突入した。それらの“時短”によって、効率的な仕事が進められるようになっているが、“一流”と呼ばれる人々は、日常生活のなかで、さらに個性的な“時短”を実践するケースも多いという。 たとえば、毎日の食事。一流の人たちの食事と聞くと、高級レストランでフルコースを味わっているようなイメージがあるが、そんなことはない。 多くの一流人たちは、まったくといっていいほど食事に時間をかけない。「経営の父」と呼ばれる京セラ名誉会長で、2兆円超の負債を抱えるJALを再建させた稲盛和夫さん(89才)の大好物が、チェーン店の牛丼だというのは有名な話だ。また、『ドラえもん』を生み出した漫画家、藤子・F・不二雄さん(享年62、1996年逝去)の行きつけは立ち食いそば店だった。 映画監督の宮崎駿さん(80才)は、毎日、アルミの弁当箱を職場へ持参しているという。妻が作れないときは自分で詰め、その弁当を昼に半分食べ、夜に残りの半分を食べる。1回の食事は5分もかからないといわれる。 世界トップの富豪であるマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ(65才)は、マクドナルドのチーズバーガーかビッグマックが昼食の定番で、質素な時短ランチを済ませたら、読書や仕事に打ち込むことが若い頃からの習慣だ。 高校を中退して渡米し、猛勉強を重ねてカリフォルニア大学バークレー校を卒業したソフトバンクグループ会長の孫正義さん(63才)は、当時の食生活について、講演会でこんなことを語っている。「食事をするときも手から教科書を離さなかった。左手に持った教科書をにらみながら、視野のはしっこにボーッと見える皿に右手でフォークを突き刺して、とりあえず刺さったものを食べる。両手にフォークとナイフを持って、料理を見ながら食事をするなどという贅沢なことは考えられなかった」 食事は単なる栄養補給と割り切って、すべての時間を勉強に費やした経験が、孫さんを一流へと導いた側面もあるのだろう。※女性セブン2021年4月15日号
2021.04.07 07:00
マネーポストWEB
4月より代表権が外れ「創業者取締役」になるソフトバンクの孫正義氏(時事通信フォト)
「創業者取締役」になる孫正義氏 ”生涯博打打ち”の人生を歩むのか
 ソフトバンクが6年ぶりとなる社長交代を発表した。孫正義取締役会長は「創業者取締役」になる見込みだが、これまで同グループを牽引してきたカリスマ経営者は、今後どんな役割を担い、何を目指していくのか──。雑誌『経済界』編集局長の関慎夫氏がレポートする。 * * * ソフトバンクの社長交代が発表された。4月1日付で新社長に就任するのは副社長の宮川潤一氏。6年間にわたり社長を務めた宮内謙氏は会長となる。 今、携帯電話業界は、菅義偉・首相が官房長官時代から強く主張してきた「スマホ料金引き下げ」によって混乱が起きている。 ソフトバンクも、20ギガ2980円という格安プランを打ち出したが、これにより、来期の業績が悪化するのは間違いない。その危機を、創業間もない時期から孫正義氏とともに会社を支えてきた宮内氏ではなく、宮川氏の力で乗り切らなければならない。 宮川氏は現在55歳。実家は臨済宗のお寺で、宮川氏も花園大学文学部仏教学科仏教学コースで学んだものの、僧侶ではなく経営者の道を歩み、1991年にももたろうインターネット社長に就任。その後、名古屋めたりっく通信、東京めたりっく通信社長を務めるが、同社がソフトバンクに買収されたことでソフトバンク入りし、最高技術責任者としてソフトバンクのエンジニアを束ねてきた。 この経歴からもわかるように、宮川氏は通信技術のエキスパート。その宮川氏が社長になったということは、5Gやそれに続く6Gなど、技術革新の続く携帯事業をテクノロジーによって切り拓いていこうという意図が込められている。代表権が外れるのは自然な流れ しかし、この社長人事以上に話題になったのが、創業者であり、現在会長を務める孫正義氏のポストだった。4月1日を期して孫氏のポストは、「創業者取締役」となる。聞きなれない肩書きだが、取締役ファウンダーと考えればわかりやすい。現在との最大の違いは、代表権がはずれることだ。つまりこれまでよりは一歩引いた立場で、会社経営を見守るということになる。 これはある意味、自然な流れだろう。孫氏は現在、持ち株会社であるソフトバンクグループ(SBG)の会長兼社長の立場にある。そしてこのところ、SBGは投資会社としての性格を強めている。それに伴い、孫氏は実業家から投資家へと自らのポジションを変えてきた。事業会社であるソフトバンクの代表権を手放すのは、その流れの中にある。 では孫氏はここから何を目指すのか。多くの人が指摘するのはウォーレン・バフェット氏との類似性だ。 バフェット氏は世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイの筆頭株主であり、同社の会長兼CEOを務める。昨年には日本の五大商社の株式を、それぞれ5%ずつ取得したことで話題になった。バフェットが動けばそれにつられて株価が上下するほどの影響力を持っている。 孫氏は10年ほど前から「群戦略」を唱えている。これは、将来性のあるIT企業に出資することで、ゆるやかな連合体を築こうというものだ。すさまじいスピードで技術革新が進むIT業界では、昨日の勝者が明日は敗者になるかもしれない。 現に、1990年代に出資したアメリカのヤフーは、一時、孫氏にとって金の卵を産むニワトリになったが、その後グーグルとの検索競争に敗れ、ほぼ姿を消している。そこで孫氏は、数多くの会社に少数株主として参加すれば、時代の変化、社会の変化に対応できると考えた。 実際、日本のソフトバンクなど一部を除くと、SBGが支配権を持つ企業は極めて少ない。アメリカの携帯電話市場を変えると意気込んで買収したスプリントもTモバイルと合併したことでSBGは第2位株主となった。 また、5年前に3.3兆円で買収した半導体設計大手アーム社も、NVIDIAに売却することが決まっている。その一方でSBGはNVIDEAの株式の一部を受け取ることになる。バフェット氏との“決定的な違い” このような、広く薄く投資する孫氏の姿はバフェット氏と重なる。しかし、孫氏とバフェット氏には決定的な違いがある。それは借金の多さだ。 いまSBGの有利子負債は20兆円に迫る。そのため1年前のように投資戦略の失敗や株式の下落によって赤字を出すと、アリババなどの持ち株を売って資金手当てをしなければならない。 一方、バークシャーは事実上の無借金経営のため、株式市場の下落は絶好の投資チャンスとなる。つまり孫氏がバフェット氏を目指すためには、借金返済に邁進しなければならない。 孫氏は創業以来、常に借金とともに生きてきた。借金によって事業規模を拡大してきたのがSBGの歴史でもある。そんな孫氏だが、10年ほど前に借金完済を目指したことがある。かつて借金完済を宣言したことも 孫氏は19歳の時に「人生50年計画」を立てている。「20代で名乗りを上げ、30代で軍資金を貯め、40代でひと勝負し、50代で事業を完成させ、60代で事業を引き継ぐ」というものだ。 50代までの孫氏は、この計画どおりに人生を進めてきた。48歳の時にボーダフォンを買収、携帯事業に進出したことが40代のひと勝負だった。その代償に、この時点で借金は2兆5000億円に膨れ上がった。 そこで50代になった孫氏は借金完済を宣言した。「人生50年計画の50代で事業を完成させるとは、自分でつくった借金をすべて返すこと。そして60代でバトンタッチする」と大見えを切った。 数年間は、順調に借金が減っていった。ところが2012年、孫氏は米スプリントを買収する。買収金額は1兆5000億円。これでまたも借金が増えた。さらにはアーム社の買収でさらに借金を重ねる。2兆円規模の借金完済を目指すどころか、いまやその10倍もの借金が積もり積もってしまったのである。 これは孫氏の性分というしかない。いくら大人しくしていようと思っても、チャンスと見るやじっとしていることができない。それだからこそ孫氏は一代にしてSBGを世界的企業グループに育て上げることができたのだ。 しかし、本気でバフェットのような投資家を目指すなら、この性格を捨てなくてはならない。孫氏にそれができるのか。あるいは生涯博打打ちとしての人生を歩むのか。
2021.02.03 07:00
NEWSポストセブン

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