最近、新しく加わった夏の風物詩に「お盆玉」がある。お年玉のお盆版のことで、2010年に山梨県に本社を構える企業が商標登録し、2014年から郵便局も取り扱うようになってから全国へ広がった。お年玉の相場は、「年齢÷2×1000円」が一般的だが、お盆玉はこれより少し少ないのだという。
孫への出費が負担になるシニア世代が増えているというが、孫からねだられるだけならまだしも、親が煽るケースもあるという。2年前に定年退職した福岡在住の青木正行氏(仮名・67歳)は、昨夏の出来事をこう振り返る。
「孫が帰省した8月はお盆玉用ポチ袋商戦の真っ只中。ショッピングモールではキャンペーンも行なわれていて、それを見つけては嫁が『お盆玉だって。じぃじはいくら入れてくれるかなぁ~』と孫に話しかける。
当然、孫は期待しますよね。あげないわけにはいきません。孫に会えたのは嬉しかったのですが、予定外の出費だったため、孫たちが帰った後、妻に怒られ、その後の食卓は普段より寂しかった」
青木氏のように、自らの生活が犠牲になってしまう場合もある。しかし、身を削ったところで孫との幸せな関係が築けるとは限らない。家族問題評論家の宮本まき子氏が解説する。
「子どもは貰ったその場で中身を確認するので、複数人の孫がいれば全員同額にしなければいけない。相手方の祖父母が渡すであろう金額を予想して、恥ずかしくない額を用意しなければいけない。
そうした考えから、無理して高額を用意する祖父母がいるのですが、無理が続けば、孫が遊びに来ること自体を憂鬱に感じてしまったり、子ども夫婦との関係悪化を招きかねない。実際、お金が原因で孫に会わなくなったケースもあります」
孫のために我慢を重ねた結果、関係が悪化するのならば本末転倒。急速に普及するお盆玉に、対応策はあるのか。NPO法人孫育て・ニッポン理事長の棒田明子氏がいう。
「親が毎月渡すお小遣いとは違うので、正直、気分次第であげるあげないを決めるくらいでもいいのです。自分たちの生活が後々苦しくなるのであれば、無理なものは無理ときっぱり断わる勇気も必要です。
あげる場合でも、金額を抑えるよう工夫する。最近では500円玉がちょうど入る小さめのお盆玉袋が販売されています。コインの中で一番大きな500円玉が嬉しい子もいますから、こうした袋を利用するのもひとつの手です」
「お盆玉ちょうだい」の笑顔に騙されてはいけません。
※週刊ポスト2016年7月8日号