今や定年は65歳という時代。厚生労働省が2015年10月にまとめた「高年齢者の雇用状況」によると、60歳で一旦定年を迎えた人のうち、1年間に実に82.1%が継続雇用されたという。
だが、問題はその後だ。再雇用先の職場でシニア世代を待ち受けている現実はそう甘くはない。
再雇用の際には、「同じ部署がいいか、別の部署がいいか」と会社側から希望を聞かれる場合がある。「慣れた職場で」と考えがちだが、大手鉄鋼メーカーで再雇用された62歳男性は「それが地獄の始まりだった」と後悔しきりだ。
「かつての部下が、上司になったとたんに豹変。こっちを立ててくれるどころか、話しかけるだけで露骨に嫌な顔をする。敬語を使うのもおかしいので普通に話をしていたが、それが説教じみて聞こえてしまったのかもしれない。
そのことを上に告げ口され、元同僚から遠回しに注意された時には、『俺の味方は誰もいない』と落ち込みましたよ。次第に職場での口数が減り、1日の仕事が長く感じられて仕方がない。そのストレスを家に持ち込むから、家内との関係も険悪になるし……。まさに負の連鎖です」
この男性に限らず、再雇用の現場で悲哀をなめているシニア世代は少なくない。難しいのは前と同じ職場での上下関係だけではない。経営人事コンサルタントの中村卓夫氏がいう。
「グループ内の子会社に行ったりすると、親会社でこれまで自分の部下だった社員が決裁権を持つような状況になる。立場が変わってビジネスライクにものを見てくる元部下の態度に、『俺が面倒みてやったのに』『俺が指導したのに』という思いからプライドが許さず、辛い思いをしてしまうケースもあります」
上司だけでなく、再雇用先での“同僚”との関係も微妙だ。
「辛いのは会社の食堂での昼食の時間。現役時代は部下の女性たちとワイワイいいながら食べていたが、いまは一緒にご飯を食べてくれる相手もいないから、食堂の隅っこでひとり黙って食べる日々。5分で食事をして、あとは喫煙室でタバコを吸っているか、芝生で寝ころんで過ごしています」(酒造メーカーで再雇用された64歳男性)
※週刊ポスト2016年8月5日号