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将棋では緊張したことない佐藤天彦名人がガクガク震えた体験

東京・将棋会館前にある鳩森八幡神社「将棋堂」の前で

 20代での名人獲得は16年ぶりという快挙。佐藤天彦新名人(28)の将棋界での愛称は“貴族”だ。クラシック音楽をこよなく愛し、ヨーロッパ中世のロココやバロックという荘厳な貴族文化に憧れを持つ。

 洋服や家具にも自分らしいこだわりがある。洋服はベルギーの「アン・ドゥムルメステール」というブランドが好きで、洋服で100着、アクセサリーなどを合わせると150近くは集めたそうだ。つばの広い帽子や、凝りに凝った装飾のボタン、ひらひらとしたシャツ、ダマスク風の柄などに惹かれるという。

 クラシックとの出会いがすべてのはじまりだった。その出会いは中学生時代。福岡から月に2回通っていた大阪の奨励会に向かう新幹線の中にあった。窓際に掛けたラジオからドヴォルザークの「新世界」が流れてきたのである。多くの人が経験するように、雷に打たれたような感動を覚えたちまち嵌りこんでいく。そしてそこはいくら嵌っても、奥が深い限りない世界であり、しかもやがてヨーロッパの文化そのものにつながっていった。

 佐藤にとってのブランドは単なるファッションではない。自分が知りえたヨーロッパ文化の体現なのである。それは古い棋譜から新しい何かを発掘することと似ているのかもしれない。

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