緊急避難が成立するためには(1)物による危険が急迫していること、(2)その物を壊すほか危険回避の適当な方法がないこと、(3)守る利益と壊す物の価値との間にある程度の均衡が保たれていること、(4)壊すのは原因の物であることです。
閉じ込めた自動車による危険状況は物によるものといえます。その急迫性の程度とも関連しますが、犬を救う方法としてできたのが窓を壊すことだけであれば(2)は充足すると思います。(3)の点も、助けるのは犬ですから、窓ガラスと均衡が取れないほど価値が低いとはいえません。(4)は問題ありません。
結局、「急迫の危難」といえるかが問題で、社会常識を備えている人から見て、警察や駐車場管理者に通報したり、開扉技術者などの協力を待っていたら、犬の死亡という結果が回避できないと認識するまでの様子ならば、緊急避難が成立するといえます。しかし、実際には窓越しの判断では難しく、可哀想ですが、警察に連絡するのが最適な手段だと思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号