イギリスの「EU離脱」国民投票がもたらした世界同時株安ショックは一巡したが、離脱の本格的な手続きはこれからであり、予断を許さない。イギリスの今後について、大前研一氏は意外な展開を予想している。
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こんなことを書くと読者の皆さんは驚くかもしれないが、私はイギリスはEUから「離脱しない」可能性が高いと考えている。なぜか?
残留派の内相から新首相になったテリーザ・メイ氏は「ブレグジットはブレグジットだ」(ブレグジット=Brexit/「Britain」と「Exit」を組み合わせたイギリスのEU離脱を指す造語)として国民投票の結果は覆さないと表明し、「離脱を確実に進めたい」と述べている。
そして離脱交渉相ポストを新設し、与党・保守党のポリス・ジョンソン前ロンドン市長も外相で閣内に入れた。しかし、国民投票で敗北した残留派のメイ新首相が離脱の複雑な手続きや厳しい交渉の舵取りをしていくのは、前途多難と言わざるを得ない。
今回の国民投票の結果としてイギリス人が最も驚いているのは、ポンドの暴落だ。EU離脱決定で31年ぶりの安値をつけ、本稿執筆時点でも1ポンド=1ドル30セント台/140円前後という、私が知る限り最も低い水準で推移している。このためイギリスはGDP(国内総生産)でフランスに抜かれてしまい、イギリス人は離脱を選択した影響の大きさを痛感しているのだ。
その一方で、フランスは大喜びしている。たとえばマニュエル・バルス首相は、次のような外国人や外資に対する優遇策を発表した。
●外国人および外国から帰国するフランス人に対する優遇税制の適用期間を現在の5年から8年に延長する。
●外国企業がフランス国内に拠点を設置する際の手続きを円滑に進められるよう、フランス語以外の言語でも対応できるワンストップ行政サービスを開始する。
●外国から移住してくる子供が学校でそれぞれの母国語で授業を受けられる機会を拡大する。
フランス銀行(中央銀行)総裁も、イギリスの銀行免許を取得している金融機関がフランス国内に拠点を設置するための申請を行った場合、迅速に処理することを確約している。「離脱」を機にイギリスから事業移転を検討する銀行などを誘致し、フランクフルトではなくパリをロンドンに代わるEUの金融ハブに育てようとしているのだ。
あまりにもフランスの動きが露骨で早いため、イギリス人は産業がみんな出て行ってしまうのではないかという不安を急速に募らせている。