実際、イギリスは「EUに加盟しているから投資が集まって成長した」という現実がある。
たとえば、EU主要国の直接投資額の推移を見ると、ドイツ、フランスは対内投資が対外投資を大きく下回っているのに対し、イギリスは対内投資がヨーロッパ最大で、対外投資と同じくらいになっている。つまり、今のイギリスにはカネと企業が世界中から集まってきているのだ。
その理由は、イギリスがEUの中でも英語圏でマネージメントがしやすく、規制緩和が進んでいて、国民が勤勉だからである。
たとえば日本企業の場合、イギリスがEUの前身であるECに加盟する以前、ヨーロッパ戦略は「国別の投資」が行われていた。そのうち南欧への投資はほぼ全敗で、フランスやドイツでも苦戦したが、イギリスでは苦労しながらもおおむね成功した。
代表的な例は、ウェールズに進出したパナソニックやソニー、イングランドに進出した日産自動車などである。だから、その後1380社もの日本企業が、ヨーロッパに拠点を作る際はとにもかくにもイギリスを選んだのである。
しかし、イギリスがEUから離脱するとなれば、企業は再び国別投資を考えなければならなくなる。その時は昔のようなイギリスかドイツかフランスかという選択ではなく「イギリスかEUか」になり、これは5億人市場のEUを選ぶのが当たり前だ。
本当に離脱するとなれば、まずスコットランドがイギリスからの独立・EU加盟に向けて動き出すだろう。そうなればウェールズも追随するだろうし、当然、北アイルランドはイギリスから離れてアイルランドと一緒になることを模索するだろう。つまりUK(United Kingdom)は、EUから離脱した瞬間に崩壊が始まり、イングランドだけになってしまう可能性が高いのである。
イングランドだけのイギリスになっても人口は1000万人くらい減るだけだが、諸外国が投資してきたのはイギリスに発展性があるからではなく、EUに発展性があるからだ。EUから離脱したら、イギリスが分裂しようがしまいが、投資が一気に萎んでしまうのは火を見るよりも明らかなのである。
以上のように考えてくると、メイ新首相が賢明ならば、EU離脱について改めて議会に諮ると思う。
なぜなら、国民投票には法的根拠がなく、最終的に決定権を持っているのは議会であり、議員の7割は残留派だからである。
具体的な方法としては、たとえば離脱オプションをいくつか議会に提案し、その中に「残留」の選択肢を入れておく。離脱後のUK崩壊のシミュレーションも、かなり現実的なシナリオを見せることができるだろう。
そうやってイギリスにとって本当に正しい選択は何かという議論を始めれば、議会はもともと残留派が多数だし、「離脱」を選んだ国民の中にも後悔している人が多いから、おそらく結論は「残留」になると私は思うのである。
ただし、もしメイ新首相が賢明でなければ、本当にEUから離脱することになるかもしれない。
※SAPIO2016年9月号