口から食事を摂ることが難しくなった患者の腹部に穴を開け、チューブを通じて人工的に水分や薬、栄養剤を注入する「胃ろう」は、代表的な延命治療として知られる。近年、それを超える勢いで急増しているのが「中心静脈栄養」だ。
鎖骨下などの静脈から心臓に近い上大静脈までカテーテル(管)を挿し込み、高カロリーの栄養剤を注入する方法である。末梢血管に注射する点滴と違い、静脈に太い管を通せるため、多くの栄養を送り込むことができる。
ただし、血管の中にカテーテルが挿入されている不快感は強いと、江別すずらん病院認知症疾患医療センター長の宮本礼子氏は言う。
「血管の中に管が24時間入っている不快感から、カテーテルを引き抜いてしまう患者も少なくない。また、カテーテルの挿入部に細菌が付着して感染症を起こし、それが原因で亡くなる方もいます」
さらに悲惨なケースでは、就寝中にカテーテルが外れた場合、気付かないまま放置され、大量出血で死亡する危険もあるという。
鼻からチューブを入れ、胃に通して栄養剤を注入する「経鼻経管栄養」は、そのあまりの苦しさから「100人患者がいたら100人ともが“抜いてくれ!”と訴える」(終末期医療に詳しい長尾クリニック院長の長尾和宏氏)という。
「鼻チューブの挿入時にはチューブに麻酔の塗り薬をつけますが、それでも痛いものです。その後、鼻から喉、胃へとチューブが挿入された状態が24時間続くのです。強烈な異物感と苦痛に普通は1時間も耐えられないでしょう。そのため、手が動く患者は皆、抜こうとします」(前出・宮本氏)
逆に言えば、健康な人なら1時間も耐えられない苦痛を、意思表示もままならない患者に24時間強いるということだ。意識不明状態の患者でさえ、苦しみの表情を浮かべて涙を流すというから、まさに「死を超える辛さ」といえるだろう。
※週刊ポスト2016年9月2日号