ガリレオは1632年に『天文対話』を著し、再び異端告発を受けます。カンパネッラはガリレオとの文通で、自分独りがガリレオの無罪を主張して『ガリレオの弁明』を出版したことを再確認し、『天文対話』の登場人物はソクラテスに匹敵すると評価しています。
しかしガリレオの異端審問(第2回目)の結果は有罪で終身刑でした(1992年になってローマ教皇ヨハネ・パウロ2世はガリレオ裁判が誤りであったと認めてガリレオに謝罪しました)。
『ガリレオの弁明』の中でカンパネッラは、アリストテレスなどの思弁よりも、ガリレオが実際に観た事実の方が信用できると書いています。対蹠地(地球の反対側)について、聖人たちの論証よりも、コロンブスやマゼランの見聞の方が確かなのと同じだといいます。そして、プラトン著『ソクラテスの弁明』やジョルダーノ・ブルーノ等を例にあげて、「智者たちは異端判決を恐れなかった」と書いて、他の誰もが沈黙していた状況で地動説を弁護したのでした。
命懸けで『星界の報告』を弁護したカンパネッラの名前を使って、宮沢賢治さんは『銀河鉄道の夜』という児童小説を書きました。主人公の名前はジョバンニで歴史上のトンマーゾ・カンパネッラの幼名です。そして『銀河鉄道の夜』は親友カムパネルラを探して旅に出る物語です。宮沢賢治さんも、自己の命を超えた価値としての宗教を子供たちに伝えたかったのだと思います。
●たなか・まさひろ/1946年、栃木県益子町の西明寺に生まれる。東京慈恵医科大学卒業後、国立がんセンターで研究所室長・病院内科医として勤務。1990年に西明寺境内に入院・緩和ケアも行なう普門院診療所を建設、内科医、僧侶として患者と向き合う。2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月と自覚している。
※週刊ポスト2016年9月2日号