調べれば調べるほど独特な文化を誇るのが名古屋。それが最も顕著に表われているのが「食」だ。本誌は名古屋に潜入し、異次元の食文化を追った。
昼時にスーパーのフードコートを訪れると、可愛らしいキャラクター「スーちゃん」が目立つスガキヤの前に黒山の人だかり。スプーンとフォークが合体した「ラーメンフォーク」で多くの人がラーメンをすする。『名古屋あるある』の共著者である川合登志和氏は、名古屋人の外食デビューはマクドナルドではなく、「スガキヤ」のラーメンが一般的と語る。
「スガキヤのラーメンは名古屋人にとって大切な食べ物です。今も320円で、自分の小遣いで食べる初めての外食がスガキヤだったという名古屋っ子は多い」
スガキヤのほかにも「思い出メシ」はある。鉄板ナポリタンは名古屋人の「家庭の味」とされる。
「アツアツの鉄板に半熟卵を敷き、上からナポリタンをかけた鉄板ナポリタンのおいしさはまさに“鉄板”です。名古屋人の家には家族の人数分の鉄板皿があります」(川合氏)
現地を移動中、タクシー運転手に「地元の名店」を聞くと、「台湾ラーメン」の『味仙』という店を勧められた。豚挽肉、ニラ、唐辛子の辛さが際立つラーメンだが、「台湾ラーメン」なのに名古屋名物なのはなぜ? 川合氏が解説する。
「元々、名古屋の今池にある『味仙』本店の台湾人コックが名古屋人の口に合うよう開発したラーメンを“台湾ラーメン”と呼ぶようになった。台湾にはない、名古屋のオリジナルです」
麺類ではほかにも、冷やし中華には当然マヨネーズという「常識」がある。名古屋市在住の50代男性が解説する。
「甘めのタレにマヨネーズをつけるのが、名古屋の冷やし中華の定番。学校給食でも冷やし中華にはマヨネーズのパックが付きます」
過去にセブン-イレブンが名古屋に進出した際、商品の冷やし中華にマヨネーズを付けておらず、大ブーイングが起こったのは地元では有名な話。以降は付けられるようになったとか。
続いて本誌記者は名古屋名物・あんかけスパゲティの発祥店とされる栄の有名店『そ~れ』を訪ねた。あんかけスパゲティはラードで炒めた太いスパゲティにトロッとしたソースをかける。醤油ベースのあんがモチモチのパスタと絡み合い、口に入れると醤油の香りが広がったのち、ピリッとした辛さがやってきた。見た目はちょっとアレだが、味は文句なしである。
「メニューができた当初の謳い文句は『3度食べたら癖になる』。口コミで一気に広がって行列店になりました」(そーれ店長)
飲んだ後の〆はラーメンより、あんかけスパゲティが名古屋流だ。
※週刊ポスト2016年9月9日号