あとから調べてみると、ここは中国船舶工業集団江南造船所であることが分かった。中国船舶工業集団の前身は中国政府の重工業省船舶局で、1999年7月に設立された中国国務院直属の国有企業。同時に誕生した中国船舶重工業集団とともに、中国最大規模の船舶建造・修理グループを形成している。中国内では北京、上海など主要都市に製造・営業拠点をもち、海外では米、ロシア、タイなど8か国・地域に支店を置くなど中国の10大軍事企業の一つ。軍艦を含む船舶建造では最大規模だ。
中国メディアによると、同集団の傘下にある江南造船所はもともと市内中心部を流れる黄浦江沿いにあったが、この敷地が2010年開催の上海万博会場の建設予定地となったため、造船所は2005年に現在の長興島に移り、新しい造船所が2008年半ばに完成。造船所は島の河岸3.8㎞に及び、4つのドックヤードと9つの桟橋などをもつ大規模なものだ。
ところが、上海最大の書店である上海書城で、長興島が属する行政区画である崇明県の最新の地図を購入したが、島の地図には造船所の建物がまったく描かれていない。島全体は東西に約24km、南北は最長部分でも約3kmしかないものの、横に約4kmもある造船所の敷地には何も描かれておらず、単なる空白になっていた。「地図自体が古いのかな」と思い、地図の「編集説明」をみると、地図の情報は2015年11月時点のもので、発行は今年1月となっている。つまり、これほど大きな造船所が載っていないのは、意図的であるのは間違いない。
発行は日本の国土地理院に当たる「中国国家測絵院」の上海市における直属機関「上海市測絵院」である。この機関は正確な情報を持っているはずだが、それが載っていないということは、造船所自体が市販の地図には載せることができない「軍事機密」扱いになっていることを意味する。
地元の農民らが言うように、ここで空母が製造され、軍事基地が建設されているとすれば、納得がいく。
【PROFILE】相馬勝(そうま・まさる)/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。
※SAPIO2016年10月号