ライフ

「死の質」低い日本 モルヒネに偏見持つ医師がいまだ多い

死の迎え方に課題が存在

 緩和ケアの専門医である長尾クリニックの長尾和宏院長は、「日本の死の迎え方は、海外に比べて20年遅れている」と断言する。先進国で医療環境の整う日本だが、「死の質」に関して後塵を拝していた。終末期医療の先進国と日本の違いはどこにあるのか。

 2015年10月に英誌『エコノミスト』の調査部門が「死の質」ランキングを発表した。緩和ケアや終末期医療の質や普及度に基づく80か国・地域のランキングで日本は14位だった。

 トップ5は1位から順に英国、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランド、ベルギー。以下もGDPでは日本に劣る国が続々と上位にランクした。アジアでも台湾の「6位」の後塵を拝す。

「医療先進国」の日本はなぜ、14位に沈んだのか。前述した上位国と比べて、緩和ケアのシステム作りが進んでいないことが一因だと関係者は声を揃える。

 たとえば日本では、痛み止めのモルヒネ投与が欧米に比べて少ない。10年前に肺がんで父親を亡くした40代女性が涙目で振り返る。

「末期がんの父が転院した近所の中規模病院では、モルヒネは使用禁止でした。過去にモルヒネを投与した患者が突然病院を飛び出すトラブルがあったそうです。モルヒネを止められた父の疼痛は激しかったようで、『痛い、苦しい』と眠ることもできず、朝まで訴えていました。その後、元の公立病院に戻るとモルヒネを投与され、痛みは収まりましたが、モルヒネ投与に偏見のある医師はまだ多いと肌で感じました」

 音楽療法なども日本ではまだまだ普及していないと米国のホスピスで10年間勤務した経験を持つ、米国認定音楽療法士の佐藤由美子氏もいう。

「日本の緩和ケア病棟にいたがん患者の女性に音楽療法を施すと、『こういうサービスを受けられて幸せ』とおっしゃいました。3年前にがんで亡くなった彼女の息子さんは緩和ケアを受けられず、痛みのあまり『いっそ殺してくれ』と懇願したそうです。

 私が米国で勤務した時、疼痛ケアもないままに死を望むような患者はいませんでした。この点でも日本は遅れています」

 前出の長尾院長は「教育」に問題があると話す。

「英国では医学部の卒業試験に緩和ケアの項目があり、医者になった後も勉強会などに参加します。日本では医学部で緩和ケアを教える教授がほとんどおらず、国家試験でも緩和ケアに関する知識を問うことはほとんど見られない。医学界全体として緩和ケアの意識が低い」

※週刊ポスト2016年10月7日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

岡田監督
【記事から消えた「お~ん」】阪神・岡田監督が囲み取材再開も、記者の“録音自粛”で「そらそうよ」や関西弁など各紙共通の表現が消滅
NEWSポストセブン
成田きんさんの息子・幸男さん
【きんさん・ぎんさん】成田きんさんの息子・幸男さんは93歳 長寿の秘訣は「洒落っ気、色っ気、食いっ気です」
週刊ポスト
愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
不倫騒動や事務所からの独立で世間の話題となった広末涼子(時事通信フォト)
《「子供たちのために…」に批判の声》広末涼子、復帰するも立ちはだかる「壁」 ”完全復活”のために今からでも遅くない「記者会見」を開く必要性
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン