◆〈運転資金が回らなくなる〉
社外秘文書の記述は売上高の急落に止まらない。次に、〈損益の急激な悪化〉という項目へと文書は続く。
2014、2015年度の朝日新聞社は経費の大幅削減という経営努力によって黒字を確保した。しかも、今年5月に公表された決算短信によれば、営業利益は2014年度の38億円から、2015年度は78億円と増益しているのだ。
しかし、文書では、〈人件費以外の固定費を大幅に削減し続けることは困難〉とし、〈16年度は、現状のままでは赤字見通し〉と、“赤字転落”の危機にあることを明らかにしたのである。
労働集約型の企業である新聞社にとって人件費は「最大のコストセンター」(業界関係者)だという。しかし、人件費にメスを入れれば現場からの反発は避けられない。それを恐れてか、文書は危機が一過性ではないことを繰り返し説明している。
〈17年度から給与改革・定年延長ができないと、⇒⇒恒常的赤字に落ち込む(16年度だけでは済まない)〉
では、どうなるというのか。文書はこう続く。
〈「繰延税金資産の取り崩し」+「新聞業の減損」で赤字数百億~1千億円規模〉
つまり業績見通しの悪化で会計上の費用も積み増しを迫られることになり、赤字額が大きく膨らむという説明だ。これにより、〈信用失い、取引条件悪化〉〈キャッシュ不足で運転資金が回らなくなる〉という文言で文書は締めくくられている。
“最悪のシナリオ”をこれでもかといわんばかりに丁寧に解説しているのだ。
一読すれば、これが「今期は経営が苦しく、さらなる待遇カットは避けられない」という窮状を社員に訴えかけるために作成されたものだとわかる。
つまりは、〈17年度から給与改定・定年延長〉に対する社員の“理解”を強いているようなのだ。
社外秘文書を配布したことや、今後の人件費削減案などについて朝日新聞に問うと、「既存事業の足固めと成長事業の創出を柱とした中期経営計画2020を今年1月に発表し、ジャーナリズムの担い手としての責務を果たすべく、達成に向けて取り組んでいます。社員向けに経営状況を説明する機会もありますが、詳細については回答を控えさせていただきます」(広報部)としている。
※週刊ポスト2016年10月28日号